COLUMNコラム
旅館なのに「週休3日」? 神奈川の小さな温泉街で、それでも売り上げをキープする4代目女将の戦略
神奈川県秦野市の鶴巻温泉にある旅館「元湯陣屋」は、囲碁や将棋のタイトル戦が行われる有名老舗旅館だったが、2009年に4代目女将の宮﨑知子代表取締役が承継するまで約10億円の負債を抱えていた。しかし、自社で開発した旅館ホテル専用の事業管理システム「陣屋コネクト」で改革を進め、数年で経営を再建した。DX化に加えて注目すべきポイントは「週休3日」という旅館には珍しい営業形態だ。導入の狙いと成果について、宮﨑氏に聞いた。
目次
休館日を導入し、週休3日へ
──DX化によって経営再建したことに加え、休館日というのを導入していますが、どういう意図でしょうか?
宮﨑 休みたかったという一言だけなんです(笑)。独自のシステム「陣屋コネクト」によって、2年半ぐらいで赤字から黒字に転換しました。マイナス6000万円からスタートしたので、高額の賃金を出すことが長くできませんでした。
では、それ以外に従業員に還元できるものはないかな、と思った時に「休み」に目を付けました。
──今は週休3日ですよね。
宮﨑 今は火水木を休館としています。デジタル改革によって、さまざまな部分で生産性が上がっており、休館日を作る前と比較しても、ほぼ同レベルの宿泊の売上をキープしています。
異業種と融通し合う関係とは
――観光業同士の連携にも取り組まれているとか。
宮﨑 2017年、旅館同士を連携する仕組みをスタートさせました。今は飲食店を含め、観光業全体へシステムを拡大しています。食材や備品だけでなく、人材までを互いに融通するというものです。
どの観光業者にとっても、旅行を計画している人から予約をもらえれば、先の見通しが立つので、そこの仕組みを提供できるようになればいいかなと思いました。顧客接点の最初の窓口は、当たり前ですけど旅館なんです。そのために連携をして地域で集客を獲得していくということです。
小規模旅館は減り続けているが
――地方の小規模旅館は過去20年間も40%以上も減少し、存続の危機にさらされています。今後の展望を聞かせてください。
宮﨑 旅館の運営経営をどうやったらうまく続けられるかと考えたときに、例えば最小単位である夫婦2人で旅館を経営していけば、採算が取れるような仕組みを作れば良いのではないかと思います。
夕食は街の飲食店を利用してもらえれば、自分たちの手間が省けるだけでなく、街の飲食店と共存し、地域雇用も増やせます。こうした連携を構築しつつ、収益を上げて経営がうまくいくモデルケースにできたら、新規参入も増えるかなと思っています。
──温泉旅館は、平安時代からあると聞きます。人類は旅館が好きなんですよね。
宮﨑 形は変わっていくと思いますが、続いていく可能性は十分あり得ると思います。そのときの世の中に寄り添うということは、我々にとってはお客様に寄り添うこと。それを見失わなければ、何とかやっていけるんじゃないかなとは思っています。
宮﨑知子氏プロフィール
1977年、東京生まれ。2000年、昭和女子大学文学部卒業。卒業後、メーカー系リース会社にて営業職に7年間従事。結婚を機に退職し、サービス業未経験のまま2009年より夫の実家である老舗旅館「陣屋」の女将に就任。夫の実家が営む老舗旅館「元湯陣屋」の経営再建を図る。2010年にはクラウド型旅館・ホテル管理システム「陣屋コネクト」を独自開発し、2012年に黒字化を達成。ICTを活用したデータ分析とおもてなし向上を実現し、業績をV字回復させたことで注目を浴びる。2017年に代表取締役女将に就任。2児の母でもある。
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