COLUMNコラム
巨大エンタメ企業を率いる二代目が父の背中から学んだこと−−セガサミーグループの事業承継/里見治紀インタビュー#2
パチンコ、パチスロなど遊技機の一大メーカー・サミーと、ゲームの開発製造販売で世界的に知られるセガが経営統合して誕生したセガサミー。時価総額4600億円(2022年11月当時)の巨大企業を率いるのは、30代の若さで父から事業を引き継いだ里見治紀氏です。大胆な構造改革、新規事業への参入…チャレンジする息子、それを見守る父。親子二代の事業承継ストーリーを紹介します。
目次
役員の後押しで社長就任
セガネットワークス(現・セガ)を大きな事業に育てた実績は自信につながりました。社長を継ぐという意識が芽生え始めたのは、その頃からだといいます。「やっぱり自分が一番、親父のやりたいことを実現できるんじゃないかなと」。
きっかけを作ったのはサミーの役員でした。父・治(はじめ)氏に、役員が「治紀さんをサミーの社長にしてくれませんか」と言ってきたのです。
「やっぱり親としては嬉しかったね。役員が『僕らが絶対に支えます』って言うから、まあ、そこまで言うのなら」と治氏は当時の心境を語ります。
会社を継がせるとしたら治紀氏が40歳くらいになってからと考えていた治氏でしたが、そのスケジュールよりも少し早く、治紀氏は2016年に37歳でサミーの社長に就任。そして2017年には、グループの持株会社であるセガサミーホールディングスの社長に就任します。
新社長への父の思いやり
治紀氏がセガサミーホールディングスの社長に就任したことに伴い、治氏は代表取締役会長となり、経営の一線を退きます。事業承継がスムーズにいった理由について、治紀氏はこう語ります。
「お互いにとても気を使っていましたね。父は人前で私のことを叱りませんし、逆に私も父に対する不満や経営方針の食い違いがあっても陰で言ったりしない。本人の前では言いますけど。父は、本当は言いたいことがあっても我慢している。人前で父が社長である私の意見をひっくり返してしまったら、誰も私の言うことを聞かなくなりますよね。『全て治紀に任せているから』と、社内外の人間が父でなく私を見るように仕向けてくれています。それはありがたいことですね」と、父の思いやりに感謝する治紀氏。
一方、息子に社長を譲ったのに権限を渡さず、社長が決めたことを会長がひっくり返すような会社を多く見てきたという治氏は、自分がそうならないよう、非常に気をつけているといいます。
「任せた以上は任せる。ただ、知らん顔はしません。当然ウォッチはしていて、本当に踏み外しそうになれば、ちゃんとアドバイスなり何なりする」と、息子を陰で支えています。
コロナ禍で強いられた大改革
2020年、会社はコロナ禍という大きな壁にぶつかります。当時約200店舗を運営していたゲームセンターは緊急事態宣言中全店舗が臨時休業、遊技機事業の取引先であるパチンコホールも休業を余儀なくされました。最悪のケースでは400億円の赤字が出ると試算され、大規模な構造改革に手をつけざるを得ない状況でした。
セガの創業時からの柱であるゲームセンター事業から完全撤退。また、セガサミーグループ全体で希望退職を募りました。その中には治紀氏が子供の時から知っている古参の役員・従業員も含まれています。
「会長(治氏)だったらこんなことはしない、という批判も聞こえましたが、逆にもっとギリギリになってからだと再就職への十分な支援もできなくなってしまうと、治紀氏は苦しい決断に至った経緯を語ります。
父はこの決断に、初めは難色を示しました。しかし、断腸の思いでやりきらなければならないという治紀氏の思いに、やがて考えを変えていきます。「ある意味で、よくここまで腹をくくってやれたなという思いはありますね」と、息子の決断を結果的には支持しました。
「感動体験を創造する」をミッションにさまざまな分野に挑む
『積極進取』と題された一冊の本。題名はサミーの社是からとっています。父・治氏が、会社で起きたさまざまなケースに対し、どのように決断したかが書かれています。裏表紙に配されたのは治氏の後ろ姿。創業者の理念を自分の代で言語化しておきたいという、治紀氏の思いを形にした本です。
父の思いを引き継いだ上で、治紀氏はセガサミーグループのミッションを「感動体験を創造し続ける~社会をもっと元気に、カラフルに。~」と位置付けます。「社員が自慢できる会社にしたいんです。私たちが手掛ける事業は『喜び』や『驚き』など、お客様の心を豊かにする反面、のめりこみや依存症など社会に対してネガティブな側面も持ち合わせています。その負の側面を出来る限りミニマイズしていきながら、それ以上の正、『感動体験を創造』していくことで、社会から求められ続ける存在になれると思います」。
ミッションに合致するビジネスはどんどんやっていこうというのが治紀氏の考えです。スポーツは最も感動を生むコンテンツのひとつである、という思いから、プロバスケットボールチーム「サンロッカーズ渋谷」を運営していることもその一例です。
既存ビジネスを深掘りしつつ、「感動体験」のミッションに合致する新規ビジネスにはどんどん挑戦し、海外にも届けたい。そんな目標のもと、セガサミーグループは今後もさまざまなチャレンジを展開していくことでしょう。
まとめ
会社を任せたら徹底して任せる、度量の大きな父。その父の思いを大事にしつつ、自分なりのビジョンを掲げて大企業を牽引していく息子。根底に流れるのは、事業への情熱と、互いを気遣う温かな思いやりでした。スムーズな事業承継の形として、ぜひ参考にしていただきたい事例です。
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