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社員に言われた痛烈な一言「あなたの評判、悪いですよ」 それでも会社を変えた次期社長、正社員登用者の感謝メッセージに涙

1300年の歴史を持つ、和紙「細川紙」が伝わる埼玉県小川町。地元企業の「セキネシール工業株式会社」(埼玉県小川町)は、細川紙の製造技術を応用して、ガスケットといわれるシール部品を製造するメーカーだ。2024年1月に36歳の若さで会社を引き継いだ、前社長の三男の代表取締役社長・関根俊直氏に、セキネシール工業に入社後の取り組みと、会社の未来像について聞いた。

落ち込む売上、社内のムードは「暗かった」

――2020年に「後継者」として、セキネシール工業に入社されて、最初に感じたのはどのようなことでしたか?

関根 率直に言うと、雰囲気は暗かったです。2018年に11億2000万円あった売上が、2019年に9億6000万円になり、特に2020年には7億7000万円まで落ち込んでいた時期でした。EV(電気自動車)やハイブリッド車の普及に伴って、うちの材料が採用されなかったことが大きな要因になっていました。

社員一人一人は、目の前の仕事に全力で取り組んでいるのですが、社員同士がどこかけん制し合っている。「一丸になって取り組もう」という意識が希薄な会社に思えたんです。

私はセキネシール工業に入社するまでに、大手自動車部品メーカーや大手採用支援会社でさまざまな経験をしてきたので、余計にそう感じたのかもしれません。

――入社後はどのような業務を担当してきたのですか?

関根 2020年1月に営業課に配属されて、8月には営業課長と人事課長を兼務していました。基本的には営業の仕事を担当しながら、人材採用や組織開発、社内のDX推進に取り組んできました。

2021年には取締役に就任し、2022年には副社長に。2024年の1月から代表取締役社長を務めています。

「あなたが来てから社員のモチベーションが下がっています」

――暗かった会社を変えるために、どのようなことに取り組んだのでしょうか。

関根 「とにかく、この雰囲気を変えなければいけない」「自分が何とかしなければ」とずっと考えて動いていきました。まずは売上を立て直すために、新規事業を作らなければいけない。そのためにも、特にお互いがけん制しあっていた営業部門と技術部門を、「営業技術部門」として無理やり統合しました。

顧客と市場をよく知り、求められている製品が何なのかを明確にする。そして、セキネシール工業の技術力で新しい製品を生み出すための改革でした。

――社員からの反発はなかったのですか?

関根 やはり、反発はありました。社員からすると、私が会社に入ったことで組織がガラッと変わってしまったことになります。

デジタル化も進めていたので、例えばFAXで行っていた業務が全てパソコンに代わり、業務内容も新しくなることに。新規事業を進めるにあたって、外から顧問を入れるときにも大きな反発がありました。

2022年、副社長に就任した頃に、社員から「あなたが入社してから社員のモチベーションが下がっています」「あなたの評判、悪いですよ」と直接伝えられたこともあります。それでも、自分の手で改革を進めていかなければならないと、必死な思いでした。

――その時期に、支えになった人や出来事はあったのでしょうか。

関根 契約社員だった方を5人ほど同時に正社員登用したことがあるんです。当然コストアップにはなりますが、会社に関わる社員の方に幸せになってほしいという思いもあり、会社としても覚悟を決めて行った登用でした。

その中の1人がある会報誌に寄稿した文章を、当時の社長だった父から渡されたんです。そこには「50代後半になり、正社員への道を諦めていた中で、正社員に登用していただきこんなに嬉しいことはありません」と、メッセージが書かれていました。

正社員登用は私が言い出して、進めた改革だったこともあり、そのメッセージを読んだ時に涙が止まりませんでした。

そういったひとつひとつの出来事に支えられて、少しずつ歩みを進めてこれたのだと感じています。

社員との距離を縮めて、風通しの良い会社に

――改革を進める中で、2021年以降の売上はどのように変わっているのでしょうか。

関根 2021年が8億4000万円、2022年が8億5000万円、2023年が8億4800万円と、ほぼ横ばいでした。そして、2024年は価格転嫁がスムーズに行えたこともあり、10億円を超える見込みになっています。

――2024年の3月には中小企業庁が主催している、中小企業・小規模事業者の後継者による新規事業アイデアを競うイベント「第4回アトツギ甲子園」の決勝大会にも出場されました。反響はいかがでしたか?

関根 社内外で、大きな反響をいただきました。社外では大手自動車メーカーの方からコンタクトしていただき、セキネシール工業の技術力をアピールする場を作ることに繋がっています。

社内では当日に数十名の社員からチャットで「今日は頑張ってください」「応援しています」とメッセージをもらったんです。少しずつですが、会社が1つになっている実感が湧いています。

――どのような改革が実を結んだと感じていますか?

関根 私自身が最も大切にしていたのは、社員ひとりひとりに向き合うということでした。今は半年に一度、必ず全社員との面談を行うようにしていますし、社員のプロフィールもしっかりとメモしているんです。

最初の組織改革はトップダウンで行ってしまったために、反発が大きかったのだと思います。社員との距離が近くなり、組織がどの方向に進むべきなのか、みんなで議論してきたことも、今の状況に繋がっているのではないでしょうか。

「空飛ぶ車」に自社のガスケットを使いたい

――セキネシール工業の製品で、今後どのような新規事業を考えているのでしょうか。

関根 セキネシール工業が造る「ガスケット」とは、液体や気体の漏れを防止するために、部品の接合面に挟み込んで使用するシール部品です。製造には伝統的な和紙づくりの技術を活用しています。

和紙は、原材料を混ぜ合わせ、均一にしてシート化する「紙すき」の技術で造られています。この原材料を混ぜ合わせる過程で、出来上がる紙に様々な特長を与えることができます。

例えば、電気を通す紙を造りたければAという材料を、熱に強い紙を造りたければBを混ぜる、といったように、お客様のニーズに合わせた製品を生み出せる開発力と、今までに蓄積しているノウハウが当社の強みになります。

EV(電気自動車)の普及で、残念ながら自動車のエンジンは、今後需要が下がっていくことが考えられます。それに伴って、ガスケットの需要も少なくなっていくことは確実です。

そんな中、「特殊な原材料を混ぜ合わせて、シート化する」という技術を使って、お客様の要望に沿った新製品を提供していくつもりです。

例えば、EV用の部品では、熱をシャットアウトする断熱材や熱を逃がす放熱材、電気をシャットアウトする絶縁材など、「熱」と「電気」をキーワードに、新しい材料開発も進めています。

さらに、その先の技術革新も見据えていかなければなりません。いつか空を飛ぶ車などの次世代のモビリティが開発されたときに、私たちが造るガスケットが当たり前に使われているような未来を描いています。

――未来のために、今のセキネシール工業に必要なものはどういったものになるのでしょうか。

関根 まずは営業力、そして開発力です。その2つの力を高めた上で、最後に必要なのは生産体制を確保する生産力だと思っています。3つの力を軸にして、社員が一丸となって、世界に誇れるような会社にしていきたいですね。

関根俊直氏プロフィール

セキネシール工業株式会社 代表取締役社長 関根俊直氏

1988年7月、埼玉県比企郡小川町生まれ。2011年に中央大学商学部を卒業後、アイシン精機株式会社(現在の株式会社アイシン)に入社。2016年1月に株式会社ビズリーチに転職し、営業や社内人事の仕事に携わる。2020年1月、セキネシール工業株式会社に入社し、営業、人事、社内のDX推進を担当し、2024年1月より現職。

取材・文/庄子洋行

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賢者の選択 サクセッション編集部

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