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28歳は女性の転機「女性にこそ学歴が必要」 中高生から自己決定力を育てる品川女子学院の教育と経営

来年で創立100年を迎える伝統校、品川女子学院。創立者のひ孫で、現理事長の漆紫穂子さんは、廃校の危機だった1989年から同校に勤務。制服の変更や中高一貫化で、不人気校の志願者を5年で30倍に増やし、国公立や早慶上理などへの合格者も多く輩出するようになりました。そして、2003年からは高卒後10年目を意識して仕事や人生へのモチベーションを高める「28プロジェクト」を開始しています。「学校経営」という事業を継ぎ、次世代の女性たちを育てる漆さんの思いを聞きました。

1人でやっていたら暴走していたでしょう

――教員時代から、制服変更や中高一貫化などの改革を進めてきましたが、1人で大変だったのではないですか。

 2006年に校長になり、当時としては若い女性だったからクローズアップされましたが、実際は父とのコンビネーションです。ずっと品川女子学院を経営してきた父も祖父は、職員を非常に大事にしていました。

校長になる前の私は学校をつぶさないことに必死で、どんなことでもやるぞ!みたいな感じでした。もし、一人でやっていたら暴走して、誰もついてこなかったと思います。

ただ、父とはめちゃくちゃやり合いました。職員会議などではやらないですけど、みんなのいる前で私が一方的に言うんです。すると教頭先生に呼ばれて、「みんなの前でやっちゃダメ」と言われることもありました。

父は、全校生徒の下の名前まで言えました。家では全然そうじゃないんですけど、学校では人格者でしたね。だから「俺は二重人格だけど、それを誇りに思う」とか言っていました。

「定員を満たすこと」が最も重要な指標

――学校は営利組織ではないけれど、教育のためには収益を上げないといけない。バランスをどう考えていますか。

 生徒を育てる「教育」と、卒業生のために「学校を守ること」が両輪なので、バランスを崩しては大変です。経営危機のことは、私も授業を自習にして志願者集めのために中学校を回ったこともありました。当時は、学校をつぶさないことが最優先でした。

でも今は、人を育てたいというビジョンがあり、生徒たちの取り組みを等身大で出していく広報もしており、バランスが取れてきていると思います。

――経営で一番大事にしている指標はありますか。

 定員を満たすことです。学校経営は、学費と、生徒数にかかる補助金で成り立ちます。だから、定員を満たすことが教育の大前提です。満たせないと歪みが起きてきます。かつては、大きいガラスが1枚割れたら入れられない時代もありました。

教師も、人数が少なく給料も少ないとなると、だんだんつらくなってきます。だから、まず定員というのが目安だと思っています。

――他に大切にされていることはありますか。

 やっぱり生徒が大人になったときに幸せになってほしいっていうことだけを考えています。そのために未来の社会がどうなるか、いつもアンテナを立てています。有名大学に入るための勉強は、必ずしも幸せに結びつかないので、未来につながることを一生懸命やることに資金を使っています。

教員もそうです。良い教員のために資金を使うのは、子どもの未来のためです。教員の質を維持するにも、定員を満たすことは大切ですね。

女性に大切な「学習歴」

――品川女子学院は、今となっては知名度も人気も高まりました。卒業生の進路にも、国公立や早慶上理が増えています。

 進学先よりも、その学部学科がすごく多様です。理系も増えていますし、企業体験を授業に取り入れているので、マーケティングに興味があるから商学部系とか社会科学系に行く生徒が結構います。学ぶ内容が多様であることが、1番興味深いですね。

女子こそ学歴が大事だと思います。でも、「学校歴」じゃなくて「学習歴」だと思うんですね。学校名は、出産や育児で休むとリセットされてしまうかもしれません。でも、復職するときの履歴書に書ける客観的なスキルは、ずっとその子を助けます。だから、そういう学科にこだわって力をつけていきます。

浪人もさせません。安全に産める20代の時期を1、2年ロスするんだったら、学科にこだわって大学院や留学で勝負しろと言っています。だから大学院への進学者も増えてきています。

28歳の転機、自分で決定する力を

――出産をはじめとする女性の転機を見越してアドバイスをしているのでしょうか。

 そうですね。28歳をターゲットにしたいのですが、それは、女性の平均出産年齢の30歳の手前であり、海外赴任やチームリーダーを任される時期です。私たちの時代は、どっちかをあきらめたのですが、両方できるようにしてあげたいのです。

私たちの時代は、そのときに人生の岐路が来るなんて、誰も教えてくれませんでした。男の子と同じだと思って大きくなり、でも1回出産して休んだら、元の職場に戻れないということが、いっぱいありました。逆に、子どもを産めなかったという人もいました。

――28歳は日本の女性にとっては一つの重要なポイントですか。

 そうですね。品川女子学院は2003年から、「28プロジェクト」を始めました。28歳の自分を思い描き、実現のためにどう行動すべきか、能動的に人生を設計できるよう生徒たちが模索します。

高1の秋の文理選択も一つの大きな岐路です。その頃から、未来にアンテナを立て、社会の情報を与えておくことが女子教育には絶対的に必要です。早め早めに準備をすることで、キャリアと出産を両方とも選べたり、順番を決めて実現したりできるようになると思います。

「28プロジェクト」のアンケートを、20代の卒業生に実施しましたが、やはり自分で決めた子のウェルビーイングは高いです。年収やポジションではなく、自分で選択できているかどうかとかいうことが職業満足度と関わっているのが分かりました。高校時代から自分の意思に基づいて行動すると、社会人になってからの職業満足度も比較群と比べて3割ぐらい高いのです。

「経営」は「教育」のための手段だった

――将来、学校を継いでもらうときのことを考えておられますか。

 まず、同族経営のこだわりはないです。良い面もあるし、悪い面もあると思っています。今度はみんなでやる学校にしたいと思っています。

スチューデントエージェンシーという言葉が最近出てきていますが、生徒が意思決定に関われるような学校にしていきたいです。品川女子学院は何でも立候補制で、何をするにしても200人ぐらいパッと手を挙げてくれます。自らやることが「格好良い」という文化ができています。

また、他校の子どもたちや、企業ともつながっていきたいです。子どもたちがいろんな学校や企業と出会い、新たなことが何かいろいろできるのでは思っています。

――もともと教育がやりたくて、経営はやりたくなかったそうですが、すごく楽しく経営されているように見えます。

 経営は教育のための手段です。だから、経営をあまり意識したことはなく、子どもたちのために何かしたいと思い、結果としてそれが経営という名前が付いたものだったのでしょう。品川女子学院の事業承継でいえば、自分のできることは最大限にやらせてもらえたんじゃないかなと思っています。

漆紫穂子さんプロフィール

1961年、東京生まれ。早稲田大学国語国文学科卒、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科を経て私立中高一貫校で国語科教員として勤務。1989年から曽祖母が創設した品川中学校・高等学校(現・品川女子学院)に入職し、中等教育の学校運営に携わり、2006年から6代目校長を務める。多くの学校改革や、同校で提唱する「28プロジェクト」などのライフデザイン教育が各界から注目さる。2017年から理事長に就任。

【この記事の前段】「品女って分かるとバカにされるから、帰り道で制服を着替えた」 廃校危機から志願者30倍、偏差値も急上昇 品川女子学院の奇跡

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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