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40度の熱出たスタッフが入居者をケア…新型コロナで壊滅寸前の福祉施設を救った「県境なき介護団」/福祉業界の救世主、岡山から全国展開~土屋【後編】

「救済型M&A」という手法で、廃業危機だった介護事業者の救済を進め、創業3年で全国展開した介護企業「土屋」。地域に根づいてきた介護事業者の事業を、全国展開するグループの一員にすることで、スケールメリットを生かした取り組みも進める。その好例が、新型コロナ禍でクラスターが発生した施設に派遣した「県境なき介護団」だった。介護業界の救世主「土屋」(岡山県井原市)の高浜敏之代表取締役社長に、経緯や福祉業界の将来について聞いた。

コロナ禍、クラスターの施設を救った「県境なき介護団」

――地域に根づいた活動をしてきた小規模の介護事業者が、全国展開するグループに入るメリットとは何でしょうか。

高浜 グループ傘下の認知症対応型グループホームで、新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生しました。入居者18名、ほぼ同数のスタッフが全員、コロナに罹患してしまったのです。しかし、入居者へのサービスを止めるわけにはいきません。40度の高熱を発症したスタッフが、コロナ患者の入居者をケアするという、壊滅的な状況に陥ってしまいました。

他施設から応援を求めようとしても、どの施設もギリギリの人数で運営しているため難しい。そこで私たちは、全国の事業経営者やマネジメント層に呼びかけました。

手を挙げてくれたグループ内の10人で急きょチームを編成し、国境なき医師団ならぬ「県境なき介護団」として現場に入ってもらい、やっと施設のスタッフが休めたのでした。ここまでの支援ができるのは、同じ志を持つ全国組織のよいところだと思います。施設の関係者の方々にも、グループに入ってよかったと実感してもらえたようです。

もう一つのメリットは、株式会社土屋がホールディングスとして、金融支援を行えることです。経営状態の悪化で問題を抱えている業者は多数あります。

九州でデイサービスや訪問介護事業を営むある事業者もその1つでした。物価高、水道光熱費の高騰、さらにコロナによる利用者数の激減で限界を迎え、グループインを決めてくださいました。寸前まで事業主さんは「首を括るしかない」と追い詰められていたそうです。資金的な支援を行った際、「命びろいした」と言われました。

事業所ごとの文化の引き継ぎ、成功の理由は

――経営主体やマネジメント層が代わることによって、それまでの歴史や文化が途切れてしまうと心配する事業者もいるかと思います。

高浜 私たちは基本的にマネジメント層を入れ替えることはしません。引退を希望される場合は卒業していただきますが、あくまで倒産を余儀なくされている事業者の持続的経営を可能にすることを主眼にしています。

また文化の引き継ぎに関して言いますと、介護業界で働くほとんどの人が初任者研修、実務者研修、介護福祉士という資格のキャリアパスを経ています。同じ勉強をし、共通の価値観を持ち合わせた人たちの集まりなので、事業運営の目的に大きなズレが生じることはまずありません。実際のところ失敗した事例は1件もありません。

「やりがい」に甘えた低賃金はダメ。国の支援と企業努力を

――福祉業界は担い手不足と言われ続けています。介護を担う人をどのように確保していくのでしょうか。

高浜 まず必要なことは待遇改善です。「やりがい」を低賃金の理由にしてはいけない。そこには国の支援が不可欠なので、私たちも声を上げてきました。結果、2024年4月より介護労働者には月6000円の賃金アップの報酬改定が予定されています。

もちろん十分ではないという声も上がっています。ただ国の支援に頼ると同時に、私たちの自助努力で改善する必要もあります。DX化による業務のシステム化やリモートワークを定着させることで、経営効率の改善と経費削減に努めてきました。

削減した分を働く人たちの賃金アップや、キャリアアップの天井をあげていくことに回しています。こうした取り組みにより毎月1000名以上の応募者がありますので、仲間を増やすことはうまくいっていると感じています。

高齢者だけでなく、障害者や児童の福祉も

――今後の展開について構想などありましたら、教えてください。

高浜 2023年11月に5期目を迎え、三大福祉と言われる障害者・高齢者・児童のすべてを事業領域とすることを決めました。それに伴い「オールハッピーの社会を実現するために、永続するトータルケアカンパニーへと進化する」というビジョンを策定しました。利用者のご家族や関係者を含めたすべての人々をハッピーにするべく活動をしてまいります。その一環で高齢者分野においては、「定期巡回随時対応型訪問介護看護」という24時間、365日対応サービスも手がけていきます。

同時に拡大路線も継続します。全都道府県に拠点はできたものの、カバーできていない地域はたくさんあります。私たちのサービスが全国の人にとって身近なものになるよう、さらに「仲間」を増やしていきたいと考えています。

(文・構成/大島七々三)

【この記事の前篇】「通常のビジネス感覚で成立しなくても、やるべきはやる」介護業界の救世主、岡山の企業とは/廃業危機の介護事業者を「救済型M&A」で救い続けて~土屋

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賢者の選択 サクセッション編集部

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