COLUMNコラム

TOP 経営戦略 新規事業の立ち上げを成功させる秘訣や注意点、成功事例を紹介
S経営戦略

新規事業の立ち上げを成功させる秘訣や注意点、成功事例を紹介

国内の中小企業を中心に、経営者の高齢化は深刻な問題です。2025年には約245万人の経営者が70歳以上となることからも、倒産や廃業を余儀なくされるケースは少なくありません。この経営者の高齢化を解決する方法の一つとして、事業承継があります。今回は、事業承継について、承継後に新規事業を立ち上げる際の進め方を解説すると共に、新規事業を成功させるポイントと成功事例を紹介します。

事業承継者による新規事業立ち上げについて

新規事業の必要性とは?

市場や顧客のニーズは、常に変化し続けます。このような外的環境の中、自社の事業を成長、変化に対応するには新規事業の立ち上げが重要です。新規事業には「新たな収益源の確保」「資産の有効活用」「長期的なリスクヘッジ」といった数々の目的やメリットがあります。その他、社内人材の能力や本人の主体性を育てるといった課題にも効果的です。

もし、現状の事業のみの場合、一定の収益が確保できていても、やがて成長は鈍化します。また、模倣されるリスクがあり、似たような製品やサービスが世の中に多く出回ってしまうとその他の競合他社も続々と市場に参入し、競争が激化(レッドオーシャン化)します。レッドオーシャン化すると、より鈍化スピードを加速させてしまうのです。

事業の成長と鈍化の一連の過程は「プロダクト・ライフ・サイクル」ともいわれ、特定の業界や市場に収益源を依存し続けた場合、将来的に企業そのものの衰退や消滅につながるとされます。

新規事業を立ち上げる際は、どのような事業を計画すればよいか迷うでしょう。新規事業には「既存事業とのシナジー効果が見込めるか」「既存事業と異なる業界に参入する」「十分な需要が見込めるか」という3点がポイントとなります。基盤が弱い新規事業での成功率を高めるため、タイミングやリサーチ、想定されるリスクやトラブルへの対策を十分に備えることが大切です。

事業承継や新規事業に関する注意点

事業承継はさまざまな要因から、「廃業」「業績悪化」「退職者の増加」「資金繰りが困難になる」といった失敗、トラブルが起こり得ます。また、新規事業の立ち上げには資金面や人手などのコストが必要ですが、市場の需要や顧客のニーズ、資金面などの確保が追いつかなければ失敗したり新規事業自体が頓挫したりする場合もあります。失敗やトラブル発生のリスクを下げるために、事業承継や新規事業の立ち上げに次のような注意点があることを知っておきましょう。

事業承継に関する主な注意点
・早めに後継者候補を見つけるなど、事業承継には時間的な余裕をもって始める
・事業の後継者候補自身に、事業承継の意思があるか確認する
・現事業の「業種」「業態」「立地」の3つを見直し、後継者候補を柔軟に募集する
・社内の混乱を防ぐため、明確な事業承継計画を作成する
・後継者候補に対し、現経営者は早めの引退予告を行う
・後継者育成を重視し、後継者に経営革新計画を作成させるなど、事業承継後の経営不振を防止する
・事業承継に伴う「贈与税」「相続税」「譲渡所得税」の節税対策を行い、資金を確保する
・弁護士や仲介会社など事業承継の専門家のサポートを受ける

新規事業の立ち上げに関する主な注意点
・自社の強みやノウハウなど蓄積してきたリソースを把握する(既存事業がある場合)
・新規事業に対し、これまでの成功体験(ノウハウ、手法など)にとらわれすぎない
・「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つから新規事業に必要なリソースを把握する
・将来的な市場の成熟度や成長率を把握する
・PDCAのフレームワークから、トライアンドエラーを重ね改善策に取り組む
・思うような収益化が図れない場合に、撤退を判断するラインを設定しておく

事業承継してから新規事業を立ち上げるまでの流れ

事業承継後に新規事業を立ち上げることを見込む場合、どのように進めるかを把握しておくことも大切です。事業承継と新規事業の立ち上げはいずれも複数のプロセスを経て行われますが、基本的な流れは以下の通りです。

事業承継の基本的な流れ 
1.会社の経営状況や後継者候補の把握、財務状況など、現状を客観的にまとめる
2.事業承継の基本方針の決定(いつ、どのように事業承継を行うか、後継者の育成方法など)
3.企業価値の磨き上げ(後継者の育成体制の確保、経営体制移行に向けた整備など)
4.事業承継計画書の策定(自社の中長期事業計画を参考に承認後のビジョンを計画書に落とし込む)
5.事業承継の実施(後継者育成や組織づくり、株式移転の後に経営者交代)
6.ポスト事業承継(後継者視点から事業の見直し、既存事業を参考に新規事業や市場拡大を検討)

新規事業立ち上げの基本的な流れ
1.市場調査と共に自社の顧客や事業のターゲット層のニーズ(=需要が見込める事業)を洗い出す
2.具体的な商品やサービスとターゲット層のニーズの2側面から今後取り組む事業ドメインを決定
3.新規事業に対する基本戦略の構築(メンバーが共有できるよう理念やビジョンを文字化)
4.対象市場の「市場性」、ターゲット層や事業に対するリスクなど「事業性」を見極める
5.新規事業の製品、サービスに必要なノウハウやメンバー、資金面の確保や体制作り
6.いつ、だれが、何をするかという具体的な行動計画をまとめる

事業承継では、新しい後継者も主体的に現経営者と共に承継後の経営ビジョンを構築していくことが後継者育成としても重要です。主体的にアイデア出しを行い、経営者としての素養を育てるよう取り組みましょう。

事業承継者が新規事業を成功させるには?

スムーズに事業承継が進んだ場合でも、事業承継後に立ち上げた新規事業を成功させるには、これまで継続してきた事業とのバランスが大切です。承継後の新規事業で成功した企業や成功のコツを見てみましょう。

新規事業で成功した企業を紹介

事業承継後の新規事業の成功事例を知っておくことで、自社の事業承継や新規事業の立ち上げを成功させる可能性を高めてくれます。既存の成功事例からはトラブルに対する考え方など、経営者に求められるマインドセットを多く学べるでしょう。ここでは、おすすめの2つの事例を紹介します。

・日本交通株式会社
(動画「【第12回放送】日本交通株式会社の事業承継 (本編)」)
川鍋一郎会長が日本で初めてスマートフォン向けタクシー配車アプリを開発しました。44歳という若さで事業を承継した理由や事業承継者としての強みについて触れています。

・株式会社陣屋
動画「【第7回放送】株式会社陣屋の事業承継(本編)」
負債を抱えた事業を承継した4代目女将、宮崎知子社長は課題となっていたアナログ管理を脱するべく、エンジニアを雇ってIT管理システムを自社開発します。この改革により、数年で経営を立て直しました。

事業承継後の新規事業を成功させるコツ

後継者育成を重視することは、事業承継後の経営だけでなく、承継後の新規事業を成功させる確率も高まります。承継後も市場や顧客から必要とされる事業を維持するには、「現経営者」「後継者」「社員(従業員)」が一丸となって既存事業の魅力を磨き上げることが大切です。事業承継後は「既存事業の磨き上げ(魅力の強化)」「自社の弱みの克服」の2つが欠かせないため、新規事業以前に、既存事業(本業)の利益強化を優先させる必要があります。磨き上げでは後継者が描くビジョン・事業戦略に合わせ、自社の強みを伸ばせるようなアイデアを出せると効果的です。特に主力製品やサービスは、集中的に経営資源を再分配し、更に質の高いものへ成長できる環境を整えましょう。

どのような企業にも弱みとなる要素がありますが、事業承継は弱みを克服するチャンスです。弱みに対しても経営資源を有効活用するため、積極的に設備投資や人材開発を見直していきましょう。

さまざまな事業承継者向けの支援施策

国内の事業承継を取り巻く課題には、政府や各自治体も本格的な支援施策を打ち出している現状です。事業承継者向けには、次の6つの側面で支援施策やサポートが行われているため、活用してみましょう。

・税制面
株式の相続・贈与を伴う場合に納める税金など、場合事業承継問題への税制面に対する制度として、

※「事業承継税制(法人版・個人版)」
※国税庁HP:事業承継税制特集へ遷移します

※「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)」があります。
※中小企業庁HP:経営資源集約化税制の活用についてへ遷移します

・融資面
相続や贈与によって取得した自社株や資産に対する納税資金や買収資金調達向けの融資として、日本政策金融公庫や民間金融機関の信用保証融資(別枠)へ申し込めます。ただし、経営承継円滑化法の認定が受けられることが条件です。

・経営面
後継者未定の中小企業では、金融機関からの借入金の経営者保証を理由に事業承継できずにいるケースは少なくありません。事業承継引き継ぎ支援センターでは経営者の資産を確保し、経営者保証解除支援に取り組んでいます。

・補助金・助成金
国が主導する事業承継・引継補助金は事業承継をきっかけとした新規事業に要する設備費用、販路拡大などの支出を対象に補助金を公募しています。このような補助金・助成金の公募は今後も見込まれる状況です。

・法律関連(民法や会社法の特例適用)
円滑な事業承継を実現するため、事業承継を妨げる法律上の制約に対する特例です。兄弟姉妹を除く相続人に対する

※「遺留分に関する民法の特例」や、
※外部リンクに飛びます。

連絡が取れなくなった所在不明株主への対応として会社法に基づく

※「所属不明株主に関する会社法特例」が利用できます。
※外部リンクに飛びます。

・公的機関による後継者育成
都道府県や商工会議所、中小企業大学校が実施する「経営後継者研修」、「事業承継引き継ぎ支援センター」など全国各地で事業承継をスムーズに成功させるための支援を行っています。

まとめ

事業承継を機に新規事業を立ち上げる場合、通常の新規事業の立ち上げとは異なる対策が必要です。新規事業を立ち上げる前には、継承した本業で利益を出すこと、ビジネスモデルが形になるまでやり遂げるという覚悟も求められます。事業承継をサポートする支援制度などの情報収集も積極的に行い、活用していく姿勢が大切です。後継者という受け身の姿勢ではなく、これまでの経営者と共に今後の経営の在り方について主体的に取り組んでいきましょう。

なお、事業承継の進め方については、こちらの過去記事でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。
(「事業承継の流れを7つのステップで解説!)

FacebookTwitterLine

賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

記事一覧ページへ戻る