COLUMNコラム
事業承継税制、実は使えない?
事業承継における相続税・贈与税の納税猶予になるのが「事業承継税制」。一見、有益な制度に思えますが、実はデメリットも存在します。本記事では、事業承継税制のデメリットとリスクについて事例を交えて解説します。
目次
事業承継税制のデメリット
事業承継税制は、中小企業の経営承継を円滑に行うために税制上の優遇措置を提供する制度を指します。具体的には、相続税や贈与税の納税猶予、減額措置が行われることで、経営者や後継者の負担を軽減します。これにより、経営資源を承継時期に集中させることができ、事業の継続性が向上することが期待されています。
しかし、事業承継税制には以下のようなデメリットが存在します。
適用要件が厳格
事業承継税制を利用するためには、一定の要件を満たす必要があります。例えば、事業の規模や事業承継後の継続要件など。これらの要件を満たさない場合、税制上の優遇措置を受けることができません。
手続きが煩雑
事業承継税制の利用には、相続税や贈与税の申告、資産評価の申請、適用後の継続要件の履行報告など、手間とコストがかかる手続きが必要です。これにより、経営者や後継者の負担が増すことが懸念されます。
具体的には、事業承継税の利用をスタートしたら、5年間は毎年、都道府県知事に年次報告書を、税務署に継続届出書を提出する必要があります。5年経過後には3年に1回の提出で済むようになりますが、一度でも(少しでも)提出が遅れたら納税義務が発生します。絶対に「提出を失念してしまった」という事態は回避しなければなりません。実際、継続届出書の提出を怠ったため、納税義務が発生してしまった例もありますので注意しましょう。
節税効果が限定的
事業承継税制の節税効果は、適用要件や資産評価額によって大きく異なります。資産評価が高くなると、節税効果が相対的に低下することがあります。また、適用要件を満たしていても、他の制度との併用が制限される場合があり、節税効果が十分でないことがあります。
税務調査の対象になる可能性がある
事業承継税制を利用すると、特に資産評価の不透明性や適用要件の厳格さから、税務当局が詳細な調査を行うことがあります。
税務調査の結果、過去の申告漏れや誤りが発覚したケースも。その場合、追徴課税や修正申告が求められ、経営者や後継者の負担が増すことがあります。
税務調査に備えるためには、以下が有効です。
・申告書類や経理資料を整理し、状況を把握しておくこと
・適切な専門家を選定し、税務調査に対するサポートを受ける
・税務当局に対して適切な説明や根拠の提示などのコミュニケーションをとる
違反時のペナルティは?
事業承継税制における違反は、主に以下のようなケースが考えられます。
・適用要件の不備……事業承継税制を適用する際には、法定の要件を満たす必要があります。適用要件を満たさないまま税制を適用しようとすると違反となります。
・継続要件の不履行……事業承継税制の適用後も、継続要件を維持することが求められます。継続要件を維持できない場合、違反となります。
・不正行為……虚偽の申告や隠蔽行為など、不正行為が発覚した場合、違反となります。
違反が発覚して納税猶予が取り消しになった場合、猶予されていた税額全額に加え、利子税を一括で支払わなければなりません。
利子税は年3.6%の割合で計算します。ただし、各年の特例基準割合が7.3%に満たない場合、利子税の税率は以下の計算式で算出します。
3.6%×特例基準割合÷7.3%(0.1%未満は切り捨て)
※ 特例基準割合は、国税庁のホームページで確認することができます。
また、不正行為が発覚した場合、罰金や懲役などの罰則が科される可能性もあります。
事業承継税制のリスクを回避する方法
上記に挙げたようなペナルティを回避するためには、以下の対策が有効です。
適用要件の確認
事業承継税制の適用要件を十分に理解し、適用前後に状況を確認することが重要です。適用要件に不備がある場合は、適用を見送るか、適用要件を満たすように対策を講じましょう。
不正行為の回避
事業承継税制を適用する際には、正確かつ適切な申告が求められます。不正行為を行わないことはもちろんのこと、誤解を招くような曖昧な記載も避けることが重要です。
適切な専門家の選定
事業承継税制の適用要件や継続要件を把握する税理士や弁護士などの専門家から適切なアドバイスを受けるようにしましょう。
まとめ
事業承継税制は、中小企業の経営承継を円滑に行うための制度ですが、デメリットやリスクも存在します。適用要件の厳格さや資産評価の問題点、税務調査リスク、違反時のペナルティなどに注意して、事業承継税制を利用するかどうか慎重に検討しましょう。
最後に、事業承継税制だけに頼らず、他の制度や手法と併用することも検討すべきです。経営者や後継者は、中小企業の経営承継を円滑に行うために、さまざまな制度や手法を総合的に活用することが求められます。
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