COLUMNコラム
家族の国籍、飲酒の節度…「あなたは機密情報を扱える人ですか」 セキュリティ・クリアランス制度導入、経済安全保障を強化
国家の安全保障に関わる機密情報の対象を、先端技術や重要インフラに拡大する「重要経済安保情報保護・活用法案」が5月10日に可決・成立しました。国家が民間人を「審査」し、機密情報にアクセスしてもいい「信用できる人」を選定する「セキュリティ・クリアランス制度」が柱です。AIなどデジタル技術がグローバルに進化する中、経済安全保障は重要度を増していますが、民間人への人権侵害の恐れも指摘されています。
なぜ民間人まで審査対象に
柱となる「セキュリティ・クリアランス制度」は、政府機関や企業が保有している安全保障などに関わる機密情報にアクセスできる資格者を政府が認定するシステムです。特定の情報へのアクセス許認可制と言い換えることもできます。
すでに特別管理秘密(外交、防衛、スパイ防止、テロ防止)を扱う公務員を対象とする秘密取扱者適格性確認制度などが設けられていますが、今回は「経済分野」に関する法律なので民間人にも対象が広がります。
新制度では、企業の従業員らの同意を前提に、家族の国籍や本人の犯罪歴、精神疾患、飲酒の節度、借金の有無などを国が調査し、重要情報を扱う権限を与えるかどうかを判断します。政府が認定した人が情報を漏らした場合は、5年以下の拘禁刑など罰則があります。
導入される意義、問題点
AIの進化によって、重大な基幹インフラや防衛に関するわずかな情報漏洩が、軍事転用されるリスクが高まっています。また、欧米各国と同レベルの経済安全保障を構築することで、先端技術の共同開発なども可能になるとしています。デジタル化とグローバル化が進む中、経済安全保障法制の整備は、官民ともに必須と言えます。
一方で、問題点も指摘されており、国家が個人、特に民間人の病歴やプライバシー、家族の情報、犯罪歴を管理することに懸念があります。また、国家にとって思想的に好ましくない民間人を「国策逮捕」する可能性も否定できないと言われています。
どのような情報が機密に該当するのかについて、岸田文雄首相は審議で「運用基準で明確にする」と曖昧な答弁を繰り返しており、「恣意的な運用」の懸念が残っています。
セキュリティ・クリアランス制度が対象とする可能性が高いとされるのが、電気通信や電気・ガス・石油などの重要インフラ、重要鉱物、半導体、自動車などです。
インフラや先端技術に関わる企業は、大手だけでなく、中小企業でも一定の注意が必要になりそうです。事業承継のタイミングを迎えている企業は、新制度を念頭に置いた情報の取り扱いや引き継ぎが求められます。
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