COLUMNコラム

TOP 経営戦略 スムーズな事業承継を実現する「種類株式」の基礎知識
S経営戦略

スムーズな事業承継を実現する「種類株式」の基礎知識

事業承継に関心がある人なら、普通株式とは異なる権利内容を持つ「種類株式」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。種類株式を活用することでさまざまな恩恵を得られるものの、使い方によって株主の利益や権利が侵害されるなど、注意点もあります。本記事では、種類株式の意味や種類、メリットと注意点について解説します。

種類株式とは

種類株式とは、簡単にいうと、通常の権利を有する「普通株式」とは権利や内容が異なる株式のこと。株式は権利内容が同一であることが原則ですが、平成18年に施行された会社法では、2種類以上の株式を発行できることを定めています。つまり、その会社が普通株式のみを発行している場合、すべての株主は等しく取り扱われるのですが、種類株式発行会社になると、種類株主ごとに取り扱いが変わるわけです。

種類株式のメリット・注意点

種類株式のメリット

種類株式には、以下のようなメリットがあります。

1.資金調達しやすくなる
株式を買いたい人(企業)の中には、「配当金や優待券を目的とする人」もいれば「議決権を目的とする人」もいます。種類株式を発行することで、こうした異なるニーズを満たすことができ、結果的により多くの資金を調達しやすくなります。

2.自社株式の分散を回避できる
後継者以外にも相続人がいる場合、経営者が後継者だけに自社株式を引き継がせたくとも、相続人に株式が分散してしまう可能性があります。後継者が議決権を保持できないと会社経営はうまく進みませんし、事業承継自体がスムーズにできなくなる恐れもあります。
また、分散した自社株式を相続人と個別合意をして回収しようと思っても、必ずしもうまくいくとは限りません。  こういった場合、種類株式を発行すると、分散した株式を回収できるので、自社株式の分散リスクを回避できます。

3.重要事項の決定権限を後継者に集中できる
種類株式を活用することで、重要事項の決定権限を後継者に集中させることが可能です。具体的には、無議決権株式を活用し、経営権を後継者に集中させ、経営体制を万全にするという方法です。

4.経営権移転のタイミングを計れる
事業承継において、いつ経営権を移転するかは重要な問題です。後継者が若く経験が浅い場合、経営権の移転に慎重になるケースもあるでしょう。そうした場合でも、現経営者のもとに拒否権付株式(黄金株)を残しておけば、経営権を移転するタイミングを慎重に判断できます。

なお、上記①〜③以外にも「従業員に交付することでモチベーション向上につながる」「1株当たりの株価単価を下げられるので、相続税・贈与税の節税効果が期待できる」など、種類株式のメリットはさまざまあります。

種類株式の注意点

種類株式のデメリットは、まず「自由に発行できない」ことが挙げられます。種類株式を新たに発行する場合は、まず内容と発行可能総数を定款で定めたうえで、株主総会を招集し、特別決議により定款の変更や株式の募集事項などを決定する必要があります。

また、自社の利益だけを考えて種類株式を発行してしまうと、投資家にとっては価値の低い株式になりかねません。逆に株主の利益を追求しすぎると自社のリスクが大きくなる恐れもあります。したがって、こうしたデメリットも考慮したうえで種類株式の発行を検討する必要があります。

種類株式は「9つ」に分かれる

会社法で認められている種類株式は、以下の9つです。発行目的に合わせて、これらを組み合わせることも可能です。

種類株式内容
譲渡制限付株式株式の譲渡について、会社の承認を必要とする株式
取得条項付株式一定の事由が生じた場合、会社が株主から株式を取得できる株式
取得請求権付株式一定の事由が生じた場合、株主が会社から株式を請求できる株式
剰余金の配当(配当優先株式)余剰金の配当について、出資比率と異なる定めをした株式
残余財産の分配付株式会社生産を行った場合の分配について、出資比率と異なる定めをした株式
議決権制限付株式議決権を行使できる事項が異なる株式
拒否権付株式(黄金株)一定事項について、株主総会決議のほか、その拒否権付株式の種類株主総会の決議を必要とする株式
全部取得条項付株式株主総会の特別決議によって会社が取得できる株式
役員選任解任権付株式取締役および監査役の選任・解任ができる株式

この中でも、事業承継において活用されることの多い種類株式は、以下の3つです。
・剰余金の配当(配当優先株式)
・議決権制限付株式
・拒否権付株式

なお、「議決権制限付株式」の中の「無議決権株式」についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
9割の人が知らない!「無議決権株式」を活用した事業承継のメリット

まとめ

種類株式を適切に使い分けることで、円滑な事業承継を実現できます。ただし、種類株式の効果や特徴を正しく理解して活用しないと、権限が強いためリスクのほうが大きくなる可能性もありますので注意が必要です。


FacebookTwitterLine

賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

記事一覧ページへ戻る