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トラブル回避に必須! 事業承継で必要な「契約書」

事業承継ではさまざまな契約書が存在しますが、とりわけ契約後のトラブルに発展しやすいのが「事業譲渡契約書」です。本記事では、事業譲渡契約書に記載すべき事項をわかりやすく解説します。自社の将来を左右する重要事項ですので、ご自身や従業員を守るためにもぜひご一読ください。

そもそも契約書とは。「覚書」と「合意書」との違い

契約書と似た言葉として、覚書と合意書があります。意識せずに使っている人も多いと思いますが、それぞれ意味合いは異なります。

契約書

契約書は、これから実行しようとする事業承継について、売り手と買い手がそれぞれの権利や義務を正式に了承したタイミングで明記する文書です。特に企業間の取引では、契約内容を記した契約書を作成し、契約書への署名捺印または記名押印により合意するのが一般的です。

覚書

覚書は、契約書の作成前に当事者間が合意した内容(事実認識や契約条項の解釈で不明確な事項など)について、その時点での共通認識を確認しておくときに利用されます。また、契約書よりも簡潔な合意内容を書面に残すときに用いられることが多いため、長い契約書を確認せずに済む、という事務処理負担の軽減というメリットがあります。

事業承継における覚書の必要性・記載すべき内容は、こちらの記事で解説しているので、ぜひご一読ください。
事業承継で「覚書」は必要?――契約書と合意書の違いを解説!

合意書

合意書は、契約締結以降に当事者間で合意した内容を明らかにする目的で作成されます。具体的には、以下のようなケースで作成することが多いです。・契約時に決まっていなかった条件を合意する・契約時点で想定できなかった事態に対処する・不法行為などにより損害を受けたとき、相手方に責任を認めさせる

事業譲渡契約書とは

事業譲渡契約書とは、事業の一部もしくはすべてを譲渡する際に用いる書類のこと。M&Aによる事業承継を進める場合、関係者との複数回にわたる話し合いが持たれ、適宜合意書を締結するのが一般的ですが、最終的に合意に至った段階で、事業譲渡契約書を締結します。

「事業譲渡」と「株式譲渡」の違い

事業譲渡の対象は、あくまで会社の事業(の一部)であり、経営権ではありません。一方、株式譲渡とは、オーナーが所有する自社発行株式を第三者に譲り渡すことです。すべて譲渡すれば、会社の経営権は譲受側に移転します。また、一部の株式を譲渡することもできます。そのため、事業譲渡の対象ではない事業の経営権を相手方に譲渡する場合は、事業譲渡契約とは別に、株式譲渡契約も交わす必要があります。

事業譲渡契約書の記載事項

事業譲渡契約書には、以下のような項目を記載します。

①契約者名

事業譲渡契約書の冒頭に「譲渡側の企業名」と「譲受側の企業名」を記載します。

②目的

譲渡側と譲受側を明確にしたうえで、譲渡日(契約書によっては、クロージングが完了する日)、譲渡対象となる事業を記載します。

③譲渡財産

譲渡財産は正確に記載しましょう。契約後に損害賠償請求などのトラブルを招く恐れがあります。譲渡財産の記載は、各項目に分けて目録を作成するのが一般的です。各項目は、譲渡する資産(不動産を含む)や債務、事業に関する契約、従業員の雇用などです。なお、譲渡対象資産に不動産が含まれる場合は、不動産の移転登記・登録手続きや登録免許税などの費用負担がかかるので注意しましょう。

④譲渡対価およびその支払い方法

事業譲渡における対価の総額と、どのような形式で授受するのか(大抵の場合は銀行振り込みなので、「振込先の銀行口座」)を記載します。一般的には、買い手側が振込手数料を負担しますが、認識に齟齬が出ないよう「振込手数料は買い手が支払う」という旨も明記するのがおすすめです。また、未確定の在庫や債務がある場合は、確定した日にそれぞれ決済することを忘れずに記載しましょう。

⑤従業員の引き継ぎ

事業に携わっていた従業員の引き継ぎを行う場合、クロージング日(譲渡実行日)までに当該社員に対して退職後再雇用(場合によっては転籍)の手続きをとる必要があります。また「労働条件を引き継ぐのか」「当該社員が譲受企業に移ることを承諾しているのか」という点もトラブルの種になり得るので、明記するようにします。

⑥公租公課の負担

税金(事業税・固定資産税・自動車税など)や保険料(雇用・社会保険)については、「譲渡日前は売り手、譲渡日の後は買い手」をベースに日割りで計算し、支払額を明確にしましょう。

⑦財産の移転時期

財産の移転時期は、「譲渡日」や「譲渡日から30日まで」などのさまざまなケースがあります。取引相手と協議の上、明記します。

⑧競業避止義務

事業譲渡後に、譲渡企業が同一もしくは類似する事業を行うことを禁じる内容です。法律上の定めを参考にしつつ、禁止するエリアや期日を当事者間で決めてください。

⑨管轄・準拠法

トラブルが発生したときに争う裁判所、契約書がどの国の法律に準拠して解釈されるのかを記載します。

⑩事情変更による契約解除、表明保証

契約が解除になる条件を記載します。その場合、「表明保証の違反が発覚した場合」の対処も明記しておくのがよいでしょう。

まとめ

事業承継の契約書を交わす場合は、当事者だけでなくコンサルタントやアドバイザーなどの専門家が間に入ることも多いですが、どういった内容を記載すべきなのかは経営者も把握しておくべきです。特にM&Aの場合は、契約後にトラブルに発展するリスクが親族内承継、親族外(役員、従業員)承継よりも高いため注意してください。

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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