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老人ホームを事業承継する際のポイント

昨今、あらゆる業界において後継者不足などにより事業承継が困難になっています。そのなかでも老人ホームは、他の業界とは異なる独特の事情で特に難しくなっているようです。本記事では、老人ホームを事業承継する際のポイントを解説します。

老人ホームの事業承継の件数は増加傾向

老人ホームの事業承継の件数は増加傾向で、今後もしばらく続くと予想されています。その背景には日本の少子高齢化があります。総務省統計局の資料によると、2021年9月15日現在の日本の総人口は、前年に比べて51万人減少しています。ところが高齢者(65歳以上)の人口は22万人増加し、過去最多の3640万人となりました。

同時に総人口に占める高齢者の割合(高齢化率)も29.1%で過去最高となっています。日本の高齢化率は世界でもっとも高く、2位のイタリア(23.6%)を大きく引き離しています。この傾向は今後も続く見込みで、2065年の日本の高齢化率は38.4%に達するとされています。以上のことから老人ホームのニーズは増すばかりですが、供給が追い付いていません。その大きな要因が人材不足です。老人ホームの業務を含む介護職は、「きつい」「汚い」「危険」のいわゆる「3K」といわれています。

体重の重い要介護者を抱えて移動させることもあるため「きつい」、他人の排泄物や嘔吐物などを処理する必要があるため「汚い」、高齢者は抵抗力が弱いため感染症になりやすく、そのような人たちの介護もしなければならないので「危険」ということです。さらに最近は給料が低いことから「4K」といわれることもあります。これらが原因で多くの老人ホームは、常に「採用難」「人材不足」「経営悪化」に悩まされており、結果的に経営権を大手企業へ譲るなどの事業承継の件数が増えているのです。

そもそも老人ホームとは

老人ホームを事業承継する際のポイントを解説する前に、そもそも老人ホームとはどのような施設なのかを整理しておきましょう。まず老人ホームには公的施設と民間施設があり、入居者の要介護度などによってそれぞれに下記のような種類があります。

公的施設

「特別養護老人ホーム」
要介護3以上の高齢者を対象とした施設です。入居後は最期まで利用することが可能で、費用も安価なことから一般的に非常に人気の高い状況です。

「軽費老人ホーム」
特別養護老人ホームとは異なり、自立した人を対象とした施設です。公営ゆえに安価に利用できます。

民間施設

「介護付き有料老人ホーム」
基本的に要介護の人を対象とした施設です。介護に加えてレクリエーションやイベントなどの娯楽サービスも充実していますが、内容は施設によってさまざまです。それゆえ費用にも幅があります。

「住宅型有料老人ホーム」
要介護者に限らず要支援者、自立者でも入居可能です。ただし、要介護の場合は外部サービスを利用しなければならない、要介護度の高い人は入居できない施設もあります。

「健康型有料老人ホーム」
自立した人を対象とする施設です。要介護になったり認知症になった場合などは退居しなければなりません。

以上のように一言で老人ホームといっても多種多様です。そのなかでも特に事業承継が困難になっているのは、民間施設で要介護者を対象としている介護付き有料老人ホームと住宅型有料老人ホームです。

老人ホームを事業承継する3つの方法

老人ホームを事業継承する方法は、おもに次の3つになります。

「親族内承継」

子どもなどの親族が後継者となる事業承継の方法です。経営者に身近な人間が事業を引き継ぐことになるので、従業員や入居者に受け入れられやすい手段といえます。ただし、親族だからといって適性があるとは限りません。本人のやる気などをしっかり見極めて早い段階から教育をする必要があります。

「親族外承継」

親族以外の役員や外部から招いた人を後継者とする方法です。こちらのメリットは、適性をしっかり見極めてから実行できるという点です。一方で経営を任せられるような人材を見つけるのは容易ではないというネックもあります。

「M&A」

自社株を外部の法人や経営者へ譲渡する事業継承方法です。M&Aを専門に扱う仲介会社も存在するので比較的容易に事業承継ができます。ただし、買い手にとって価値ある企業でなければ契約は成立しません。

老人ホームの事業承継を成功させるポイントは?

上記のように各事業承継の方法には一長一短があります。しかしながら現実的にはM&Aを利用するケースが増加傾向です。なぜなら、ただでさえ少子高齢化で若年層が減っているなかで、介護という独特のノウハウが必要な事業を引き継ごうという人が見つかりにくいからです。

その点M&Aならば、最初から後継者を探す必要がありません。また、そもそも老人ホームの買い手は経営ノウハウがあるので、安心して従業員の雇用を引き渡すこともできます。ただし、老人ホームのM&Aは、介護保険や自治体の許認可など特殊な手続きが発生します。それゆえ、老人ホームの事業承継に精通した専門家に仲介を依頼することが得策といえるでしょう。

まとめ

老人ホームの事業継承は、一般的な企業よりも後継者の知識とやる気が問われる傾向があります。ですから早めの準備開始が重要です。どのような事業承継の方法を取るのか決まっていなくても気になったタイミングで専門家へ相談してみましょう。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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