COLUMNコラム
一般措置と特定承継、どう違う?
昨今の後継者不足の深刻化を受けて2008年に施行された法律が、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」です。この法律では、3つの柱として「事業承継税制」「遺留分に関する民法の特例」「事業承継時の金融支援措置」が盛り込まれていますが、とくに事業承継税制は、活用すれば大きなメリットになります。本記事では、法人を対象とした「非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予制度」のうち、「一般措置」と「特例措置」について解説しましょう。
目次
事業承継税制の基本
「事業承継税制」とは、先代経営者が後継者に非上場の自社株式等を相続や贈与によって引き継ぐときに、後継者が負担するべき相続税・贈与税の納税が猶予・免除される制度です。
少子高齢化や経営者の高齢化など、事業承継における後継者不足が叫ばれるなかで、納税の負担は後継者が承継を断念する大きな要因となっています。
もしも会社を引き継いだとしても、納税のために事業資源を手放したり、会社の運転資金を納税に当てたりなど、事業の経営に影響をもたらす懸念もあります。国はこのような阻害要因をなくすべく、後継者の税負担をすこしでも減らそうと制定したのが、この事業承継税制なのです。
「一般措置」の特徴は?
この事業承継税制においては、事業の後継者が贈与や相続によって取得した法人の株式にかかる税金の納付が猶予されますが、さらに一定の条件を満たした場合には、その納付が免除されます。
事業承継税制の導入当初の原則的な措置を「一般措置」といい(租税特別措置法70条の7)、2018年度の税制改正で「租税特別措置法」が改正され、新たに「特例措置」が導入されました(租税特別措置法70条の7の5)。
当初は一般措置しかなかったわけですが、一般措置には次の4つのデメリットがありました。
①納税猶予の対象になる株式数が100%ではなく、かつ相続税の猶予割合も100%ではない
つまり、後継者が事業承継をするときには、多額の贈与税・相続税を納税する必要があるわけです。
②税制の対象となるのは、1人の後継者へ贈与・相続される場合のみ
後継者が兄弟で事業を行うため、株式を半分ずつ持ち合うといったケースでは、兄弟のどちらかしか事業承継税制の適用を受けることができませんでした。
③後継者が自主廃業や事業売却を行う際でも、承継時の株価をもとに贈与税・相続税が課税される
たとえ経営環境の変化により、事業承継当時と比べて株価が下落した場合でも、贈与税・相続税は承継当時の株価がベースとなって課税額が決定されます。そのため、後継者には過大な税負担が生じるリスクがありました。
④税制の適用後5年間で、平均8割以上の雇用を維持できなければ、税金の納付猶予が打ち切られる
5年間で平均8割以上の雇用を維持できない場合、税金と利子税をまとめて納付する必要がありました。しかし現実問題として、「平均8割以上の雇用を維持する」という条件は人手不足の中小企業にとって大きな難題であり、税制の適用を受けることを躊躇する企業が非常に多かったのです。
「特例措置」の特徴は?
こうしたデメリットから、事業承継税制は十分活用されているとは言い難い状況にあり、2018年度にあらためて施行されたのが「特例措置」です。
特例措置では、一般措置の上記の欠点を解消するものとして、次の特徴があります。
①納税猶予の対象になる株式数が100%、相続税の猶予割合も100%になった
②親族外を含む複数の株主からの承継も税制の適用対象となり、後継者は1人に限らず、最大3人への承継も税制の適用対象となった
③贈与税・相続税は自主廃業時や事業売却時の株価をもとに課税されることとなった
④「5年間で平均8割以上の雇用」という要件を満たさなかった場合でも、税金の納付猶予が打ち切られなくなった
要は、一般措置で欠点とされていた点をすべて解消し、この特例をより自由に活用できるように裾野を広げたのです。
特例措置を受けるときの注意点
比較すると、特例措置のほうが魅力が大きいように思いますが、特例措置を受けるにあたっては注意すべき点もあります。
①特例承継計画の提出が必要
一般措置と異なり、「特例承継計画」を作成し、提出する必要があります。この計画は、まずは認定支援機関の協力のもとで作成し、承認を受けて、都道府県知事に提出します。会社の事業内容や従業員数、代表者、後継者などの基本事項から事業承継後の経営計画まで、次の経営者が行うべき施策をわかりやすく記載することが求められます。
②計画書の提出には期限がある
計画書を作って提出できるのは、2023年3月31日までです。利用する場合は早めに作成して提出しなければなりませんが、一朝一夕で完成できる書類ではありません。この計画書は、上記でも述べた「認定経営革新等支援機関」でなければ作成できないことにも注意が必要です。
③あくまで「納税免除」ではなく「納税猶予」
事業承継税制を利用すれば贈与税は猶予され続けますが、もしも5年後に後継者が「会社を辞めたい」と言い出した場合、利子税を含めた納税の義務が発生します。
くわえて、3年に1回の更新手続きが必要となりますが、これを忘れたらやはり直ちに納税しなければなりません。ただし、事業環境の悪化など、やむを得ない理由で廃業する場合は、猶予税額が免除されるという可能性もあります。
まとめ
事業承継税制における「一般措置」と「特例措置」について解説しましたが、「特例措置」の提出期限はまぢかに迫っています。もしも特例措置の提出期間が終わっても、一般措置を活用することで、思わぬ活路が拓ける可能性もあります。自社にとって最もベストな方法で承継するために、情報や知識をつねにアップデートすることが大切です。
SHARE
記事一覧ページへ戻る