COLUMNコラム
「不動産投資は、チャリンチャリンお金が入る不労所得ではない」 借金2億だった20代から復活、リニア開通をにらむ不動産賃貸会社社長 ~山長・後編
祖父の死をきっかけに、28歳で借金2億円と月20万円の赤字を垂れ流すアパートを相続した「山長」(山梨県甲府市)の長田譲代表取締役。自ら掃除するなど、賃貸経営に主体的に関わることで黒字化に成功したが、再び暗雲が…。賃貸物件の空室率が全国最悪レベルの30%ともいわれる山梨県で、「空き室のないアパート経営」を実現した長田氏は、どうやって復活したのだろう。
目次
世界にたった1つのカフェ風キッチンを自らデザイン
――賃貸アパートが再び赤字に転落して、どんな手を打ったのですか?
長田 当時通っていた美容室のオーナーに「アパートの集客がなかなかうまくいかない」と悩みを打ち明けました。すると、オーナーは「女性受けするカフェっぽい部屋にしたらどう?」とアドバイスしてくれました。
実は、私は「カフェっぽい部屋」の意味がさっぱりわかりませんでしたが、いろいろ調べてみると、木などの自然素材を取り入れたインテリアを重視した部屋だと感じました。
私の物件はファミリータイプが中心で、20~30代のカップルや新婚さんの入居が多い。管理会社に聞くと、部屋選びは女性が主導権を握っているとのこと。カフェ風のキッチンをつくれば、集客できて、家賃も上げられるのではないかと思いました。
しかし、カフェ風のキッチンは既製品にはありません。自分でデッサンを描き、工事業者に依頼しました。職人さんにイチから作ってもらった世界に1つの特注品です。
――カフェ風キッチンに対する反響はどうでしたか?
長田 募集を開始したところ、内見の方の反応がものすごく良かったです。でも、入居者がすぐに決まるかと思っていたら、そんなに甘くはありませんでした。成約までに半年以上かかったのです。自分なりに原因を分析し、導き出した答えが「集客」でした。
大手サイトからではない、自社による集客が驚異の約8割
――集客にどんな課題があったのですか?
長田 部屋を探すとき、ほとんどの人は大手不動産ポータルサイトに希望条件を入力して検索します。ところが、私の物件は築年数が古く、リノベーションに力を入れているので家賃も相場より少し高い。そうなると、部屋を探している人の検索条件にそもそもヒットしないのです。
だったら自分で集客すればいいと考えて、2018年にホームページに加えてInstagram、Twitter(現X)、YouTubeの3つのSNSを開設して独自に情報を発信し始めました。それでもうまくいかず、2020年にはホームページのSEO(検索エンジンの最適化)を強化しました。その結果、反響があり、安定して集客できるようになりました。
――自分で集客している不動産オーナーなんて珍しいですよね?
長田 自分が集客するという発想のオーナーなんてほとんどいないと思います。うちは自社による集客が8割くらいを占めます。自分で集客はしつつ、契約は仲介会社を通します。仲介会社ともWin-Winの関係になります。
――業績はどうですか?
長田 2023年は家賃収入が2000万円を突破して、過去最高収益を達成できました。借金はまだ残っていますが、もう1億円を切っています。 営業利益は2017年と比べて4倍になりました。
――不動産投資というと、不労所得でお金がチャリンチャリン入ってくるイメージを持っている人がいると思いますが、泥臭い事業ですね。
長田 自分で部屋の掃除をしたり、リフォームや集客を考えたり。不労所得と思った時点で間違いです。不動産投資は、実質的には経営です。経営者としての目線がないと成り立ちません。
リニア中央新幹線開業でプチバブル到来か?
――今後の展望を教えてください。
長田 山梨県は他の地方都市と同様、人口が減少していきます。賃貸物件を利用する人が多い生産年齢人口(15~64歳)は、2020年の約47万人に対して、2050年には30万人まで減ってしまうと予想されています。そうなると、空室率が悪化するのは明白です。
今後は、恐らく二極化がさらに加速して、賃貸物件どころか管理会社まで淘汰されてしまう可能性が高いでしょう。
今は築年数だけで物件を判断する方は少なくなってきました。私の物件はまだ築30年なので、築50年くらいになるまで頑張ってもらいたい。リノベーションを繰り返することによって、住みたいと思われるような付加価値の高い賃貸物件にしていきたいですね。具体的には、これから高齢者人口が増えていくので、高齢者向けの賃貸物件というのも検討したいと考えています。
――山長の物件は、甲府市中心部ではなく、南の郊外に位置していますよね。
長田 私の物件がある甲府市大里町は、リニア中央新幹線の駅予定地のすぐ近くです。クルマで甲府駅に出るのと、リニアで東京の品川駅に出るのでは、同じくらいの時間です。リニアが開通すれば、このエリアは活性化するでしょう。
あれだけ恨んでいた父と祖父に今は感謝
――長田さんは赤字アパートを相続して大変な思いをしましたが、事業承継で大切なことは何だと思いますか?
長田 3つあります。1つは、遺言書の大切さです。先代が生きているうちに事業を承継するとは限りません。もし、先代が亡くなってしまったら、遺言書があるのとないのとでは、事業承継のやりやすさがまるで違います。
2つ目は、できたらお金は残すべきです。実は、祖父がアパート経営を始めたころは利益が出ていたようです。ところが、浪費してしまって、私が相続したときは内部留保がありませんでした。内部留保がないと、次の世代が困る可能性があります。
3つ目はイノベーションの大切さです。現状維持は絶対に通用しません。失敗を恐れずに、自分で考えたことをとにかくやってみるしかありません。失敗から学ぶことからしか、失敗は減らせません。
――長田さんは、承継に際して先代、先々代から何も教われなかったわけですね。
長田 そうです。経営方針について先代と後継者の意見が衝突するという話を耳にすることがありますが、私の場合、父も祖父も亡くなっていたので、けんかすらできませんでした。けんかできるということは、教えてもらえることの裏返しです。
――28歳で2億円の借金を相続する人はなかなかいません。改めて振り返って、どのように感じますか?
長田 事業を承継したときは、父や祖父を恨んでいました。しかし、今は違います。借金があるということは、借りられる能力があるから銀行は貸したわけです。ギャンブルで2億の借金を背負ったわけではありません。銀行がお金を貸せるような事業を受け継げたと考えると、私はなんて幸運なんだと今は思います。
最初は2億の借金なんて絶対に返せないと絶望していた長田穣が、今は当たり前のように返しています。毎月ある程度の利益も残すことができています。あれだけ憎んでいた父と祖父に、今は感謝しています。
長田譲さんプロフィール
長田譲氏
有限会社山長 代表取締役
1978年山梨県生まれ。東海大学文学部卒業後、住宅メーカーの営業職や派遣社員などを経験。2007年、祖父の死去に伴いアパート2棟を相続。会社勤めのかたわら、アパートを経営。2015年、母親が継いでいた有限会社山長を承継し、代表取締役就任。
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