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自社株を売却するメリットやデメリット、注意点をまとめて解説!

自社株の売却は、資金調達手段としてだけでなく、事業承継の手段として検討することも可能です。自社株の活用法を理解することは、経営者や企業にとって経営の選択肢が広げることにつながります。この記事では、自社株売却の基本から自社株売却のメリット・デメリット、注意すべき点まで詳しく解説します。

自社株とは

自社株とは通常、上場企業が自ら発行し、保有している株のこと指します。
ここでは、自社株の特徴と売却する際のメリット・デメリットを解説します。

会社が所有する自社の株式

会社の自社株保有は、余剰資金が発生した際の株主・税金対策や、経営の安定化などを意図して行われます。以前の商法では会社が自社の株式を買ったり所有したりすることを禁止していました。なぜなら会社が不正に支配される手段に利用されるほか、インサイダー取引などの不公正な取引が発生する恐れがあるとされたためです。

しかし、1994年の商法改正によって従業員持ち株会へ譲る場合や、利益によって株式の償却を行う場合、一定の範囲内であれば自社株買い・保有が認められるようになりました。また、2001年のさらなる商法の改正によって規制が見直され、現在では保有数や期間には制限はなく、原則として自由な取得と保有ができるようになりました。

自社株を売却するメリット

自社株を売却するメリットは3つあります。

①資金調達ができる
自社株売却の大きなメリットは資金調達ができることです。自社株を売却した場合、その対価として売却益が得られます。金額は「売却する株式数×1株当たりの価値分の金額」で算出できます。通常、新しく株式を発行して売却を行う場合は発行済株式総数が減少するため、2週間以内に異動届出書の提出が必要です。しかし、発行済株式総数に変化がない場合、届出は不要になります。そのため、株式を新たに発行するのではなく、発行済の自社保有している自社株を売却する場合は、迅速かつ円滑な資金確保ができるのです。

なお、自社株を売却する場合は、主に「第三者割当処分」という方法が使われます。これは自社株を不特定多数に売却するのではなく、外部の特定の第三者に売却するというものです。

②企業再編ができる
企業再編とは、効率的な企業運営や事業拡大などをするために、企業の事業や組織を編成し直すことです。自社株売却ではより円滑に企業再編を行えるというメリットがあります。一般的な企業再編では、「合併」「分割」「株式交換」などの方法がとられます。しかし、この時手元に自社株がない場合には新たに株式を発行する必要があり、その場合には2週間以内に異動届出書を提出しなければいけないなど、煩雑な手続きが必要です。対して企業再編は、既に自社株として所持している株式に関しては企業再編を目的とした代用交付が可能なのです。新規株式発行のための発行済株式総数や登記の変更などの手間が省け、円滑に企業再編が行えます。

また、自社株の売却によって保有割合や株主構成を変更できるため、会社への影響力が変動し、企業再編が進みやすくなることもメリットといえます。事業売却を行うという手段もありますが、円滑な企業再編を目的に自社株を売却した事例は多くあるのです。

③事業承継対策
多くの経営者にとって、自社株の売却といえば事業承継というイメージが強いのではないでしょうか。この場合の自社株は、非上場企業の経営者が個人で保有している自社の株式と読み替えることも可能で、いずれも次の経営者に株式を売却し、集約することを意味します。

現在の経営者の生前に行えるため、複雑な相続問題や、引き継ぎ忘れなどのリスクが少なく、後継者の負担が小さい点がメリットです。また、従業員の精神的負担の軽減にもつながります。万が一会社の経営権が外部に移ったり、廃業したりするとなれば、自分の雇用はどうなるのかと不安に思うでしょう。その点、適切な後継者へ事業承継が円滑に行われれば会社は存続するため、会社との雇用契約は継続され、従業員の精神的負担が軽減するのです。

自社株を売却するデメリット

自社株を売却するには大きなメリットがありますが、一方で考慮すべき点やデメリットも存在します。それらを理解せずに、安易に自社株の売却を進めるのは危険です。自社株の売却を検討している方は、ぜひこれから解説するデメリットも考慮し、慎重に判断しましょう。

①株価の下落
中小企業の場合は当てはまらないことが多い内容ですが、上場企業の場合は自社株の売却によって株価が下落し、自己資本が減少する恐れがあります。自社株を売却すれば、株式市場における自社株の流通数が増えます。株式市場は需要と供給の関係で成り立っており、需要に対して供給が増えすぎると、それだけ株式の価値は下落するのです。また、自社株の売却によって1株あたりの純利益が減少し、「PER(株価÷1株当たりの純利益)」が上昇するため、株価の下落を促進してしまいます。

株価の下落は、自社株を保有している投資家の資産が含み損になることになり、投資家から批判を受ける恐れがあります。加えて、財務が悪化して銀行融資を受けるのが難しくなる場合があり、経営にも悪影響が出ます。したがって、自社株を売却する際には、売却する枚数の設定を慎重に検討する必要があります。

②売却益にかかる税金
自社株を売却して得られる譲渡益には税金が課されます。ただし、自社株の売却の場合は社外に売却するか、社内に売却するかで所得の種類が変わるため、課税額も変動します。まず、社外に自社株を売却して得た利益は「譲渡所得」となります。譲渡所得は分離課税方式によって計算されるため、他の所得の影響は受けません。

課される税率は所得税15.315%(2037年までは復興特別所得税1.021%が加わる)、住民税5%、計20.315%です。

続いて、社内に自社株を売却して得た利益は「配当所得」となります。配当所得は給与所得や事業所得などの収入と同じように扱われるため、譲渡所得のように分離課税にはならず、いわゆる「総合課税」になります。総合課税は税率が一定ではなく、累進課税(所得が大きくなるほど税率も上がる)です。
累進課税では最高で45%の所得税がかかり、さらに復興特別所得税、約10%の住民税も加わるため、社内で自社株を売却する場合の税率は最高で約55%にもなります。

経営者の場合はある程度の収入があるとされるため、売却益が少なくても分離課税の20.315%より税率が低くなることは期待できないでしょう。自社株は、売却益の金額に関わらず社外に売却した方が税率を抑えられるため、経営者の負担は軽くなります。

③株式が分散するリスク
資金調達手段として自社株を不特定多数の人に売却してしまうと、株式が分散するリスクがあります。株式には議決権があり、株主には議決権比率によって権利が付与されます。つまり、特定の第三者に分散した株式を買い集められてしまえば、重要事項の決議が滞ったり、会社そのものが乗っ取られたりする恐れがあるのです。

1/2超の議決権の保有では普通決議の可決が可能になり、取締役の役員報酬の決定、選任及び解任、配当の決定などができます。2/3超の議決権の保有では重要事項の可決が可能になり、定款の変更、会社の解散、合併の承認などができます。

しかし、1/3超の議決権を保有していればこれらの重要事項に対して拒否権を行使できるため、1/3を超える株式が社外に分散することは避けなければなりません。実際に新興国の企業が1/3超の株式を買い集め、経営権を奪うという事例が中小企業でも発生しています。

自社株を売却する際の注意点

特に、事業承継のために自社株の売却を行う場合には、経営者が行っておくべき準備があります。ここでは、自社株を売却する際の注意点を解説します。

自社株の売却はスムーズとは限らない

中小企業の事業承継において、経営者個人が保有している自社株の売却は一般的な手法です。他の事業承継の手続きと比べると手続きが簡単であり、会社を独立させたままの状態で引き継ぎを行えるため、従業員の負担は少なくなります。

しかし、自社株を買い取る側にとっても大きな決断であるため、売却先が円滑に決まるとは限りません。売却先次第で課される税率が変わることや、従業員に精神的な負担がかかることなども含めて検討する必要があります。

いくら簡単であるとはいえ、自社株の譲渡価格の算定やリスク分析などは、専門知識がなければ行うことは困難です。円滑に事業承継を行うためにも、必要に応じて専門家や外部識者のサポートを受けるとよいでしょう。

譲渡制限や株券の発行を確認する

株式は本来自由に売買されるものですが、中小企業の株式の場合、株式の分散を防ぐために譲渡制限をつけているケースもあります。譲渡制限がある場合、株式の売却には取締役会もしくは株主総会の決議が必要です。

また、2004年の法律改正以降、以前は必要であった株券の発行が不要になりました。株券がある場合、株式の譲渡成立のタイミングが変わるため、自社が株券を発行しているかについてはしっかりと確認しましょう。

売却額は正しく設定する

非上場株式を売却する場合、一般的には次の3つの評価アプローチが採用されますが、評価する方法によって算出される株価が異なります。これらの評価方法にはそれぞれ長所と短所があるため、売却の背景や会社の規模、状況などを鑑みて最も適した評価方法を選択する必要があります。

収益方式(インカムアプローチ):将来のキャッシュフローに基づいて評価
・DCF法(割引キャッシュフロー法)
・収益還元方式
・配当還元方式

純資産方式(コストアプローチ):株主持分の清算価値に基づき評価
・簿価純資産方式
・時価純資産方式
・時価純資産方式+営業権(年買法)

比準方式(マーケットアプローチ):類似する上場会社の株価や市場の取引事例から評価
・類似企業比準方式
・取引事例方式

その他:税法基準
・財産評価基本通達 所得税法方式・法人税法方式

まとめ

自社株の売却は、企業の資金調達として考えられるだけでなく、事業承継において経営者個人の負担軽減に大きく役立つ手段です。以下の記事では事業承継を行う上で重要な7つのステップを詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
事業承継の流れを7つのステップで解説!

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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