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有効活用しよう! 事業承継における「融資・保証制度」

事業承継を行う場合、事業用資産や自社株を引き継ぐために多額の資金が必要になります。これらの資金を用意できないことから、事業承継を断念する会社もあるほどです。本記事では、事業承継で利用できる融資・保証制度の概要を解説します。

まず検討すべきは日本政策金融公庫の「低利融資」

事業承継で必要になる主な資金として、以下が挙げられます。

・自社株式や事業用資産を後継者が買い取るための資金
・相続や贈与によって自社株式や事業用資産を後継者が取得した場合の納税資金
・株式や事業の一部を役員や従業員が買い取って事業承継を行うための資金
・経営者の交代により会社の信用状態が悪化し、銀行の借入条件や取引先の支払条件が厳しくなった場合

上記のような場合、政府系金融機関の「日本政策金融公庫」から低金利の融資を受けることができます。

条件は以下のとおりです。

・後継者不在などにより事業継続が困難となっている会社から、事業や株式の譲渡などにより事業を承継する場合
・会社が株主から自社株式や事業用資産を買い取る場合
・経営承継円滑化法に基づく認定を受けた会社の代表者個人が、自社株式や事業用資産の買い取りや、相続税や贈与税の納税などを行う場合
・融資限度額:7億2,000万円(うち運転資金4億8,000万円)
・融資利率:通常1.21%の基準利率が適用されるところ、0.81%の特別利率を適用(融資期間 5 年の場合。平成 29 年 4月時点)。

※上記は標準的な貸付利率です。適用利率は、信用リスク(担保の有無を含む)等に応じて所定の利率が適用されます。

手間がかかるがメリット大!「事業承継・集約・活性化支援資金」

続いて紹介するのが、日本政策金融公庫の融資「事業承継・集約・活性化支援資金」です。この融資の対象と資金の利用方法は、以下のとおりです。

1.中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者(候補者を含む)と共に事業承継計画を策定している方:事業承継計画を実施するために必要な設備資金および長期運転資金

2.安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方:事業承継を行うために必要な設備資金および長期運転資金(事業を承継・集約される方に対する転貸資金を含む)

3.事業の承継・集約を契機に、新たに第二創業(経営多角化、事業転換)または新たな取り組みを図る方(第二創業または新たな取り組み後、おおむね5年以内の方を含む):当該事業を行うために必要な設備資金および長期運転資金

4.中小企業経営承継円滑化法に基づき認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人である中小企業者または認定を受けた事業を営んでいない個人:事業承継を行うために必要な設備資金および長期運転資金であって、中小企業経営承継円滑化法施行規則に定める資金

5.事業承継に際して経営者個人保証の免除等を取引金融機関に申し入れたことを契機に取引金融機関からの資金調達が困難となっている方であって、公庫が貸付けに際して経営者個人保証を免除する方:金融機関との取引状況の変化に伴い必要な長期運転資金

審査においては、書類をそろえたり、担当職員の視察を受けたりする必要があります。手間はかかるものの、良い条件で融資が受けられるので、専門家に相談しつつ確実に進めるといいでしょう。

経営者の個人保証が不要! 信用保証協会による「特別保証」

信用保証協会による「特別保証」は、中小企業や小規模事業者の円滑な資金調達を支援することを目的に設立された制度です。

これまで、事業承継によって経営者が交代すると、先代経営者から保証を切り替え、後継者の保証が必要でした。しかしこの特別保証制度では、経営者の個人保証が不要となります。

さらには、経営者保証コーディネーター(事業承継ネットワーク地域事務局等が雇用する専門家)による確認を受けた場合には、保証料率が大幅に軽減されます。

対象は、次の(1)または(2)に該当し、かつ、(3)に該当する中小企業者です。

(1) 保証申込受付日から3年以内に事業承継を予定する事業承継計画を有する法人
(2) 令和2年1月1日から令和7年3月31日までに事業承継を実施した法人であって、事業承継日から3年を経過していないもの。
(3) 次の①から④までに定める全ての要件を満たすこと。
①資産超過であること
②EBITDA有利子負債倍率が10倍以内であること
※EBITDA有利子負債倍率=(借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)
③法人・個人の分離がなされていること
④返済緩和している借入金がないこと

資金使途は事業資金で、限度額は2億8000万円となっています。

なお、経営者の個人保証のリスク、解除する方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「事業承継の際、経営者の「個人保証」は解除できるのか?」

新たな取り組みをする場合は「事業承継補助金」

事業承継補助金(事業承継・引継ぎ補助金)とは、事業承継をきっかけとして経営革新や事業転換などといった新たな取り組みをする中小企業を対象とした補助金制度のこと。

制度のポイントは以下の4つが挙げられます。

ポイント①申請はシステム経由で行う

事業承継補助金の交付申請は、経済産業省が運営する電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」を利用します。

「jGrants」のアカウント発行には1~2週間程度かかるので、余裕を持って申請しましょう。公募開始前の発行申請も可能です。

ポイント②申請期間は4期間

令和3年度補正予算 事業承継・引継ぎ補助金では、申請期間は4期間となっています。申請期間を確認のうえ、タイミングのいいものを選びましょう。

ポイント③補助対象は限定的

事業承継・引継ぎ補助金は「経営革新」と「専門家活用」の2つに分かれています。

専門家活用においては、委託費のうち、FA業務または仲介業務に係る相談料、着手金、成功報酬等の中小M&Aの手続進行に関する総合的な支援に関する手数料に関しては、「M&A支援機関登録制度」に登録された登録FA・仲介業者が支援したもののみが補助対象となります。

ポイント④廃業・再チャレンジ事業の新設

令和3年度補正予算 事業承継・引継ぎ補助金では、廃業・再チャレンジ事業が新設されました。経営革新事業・専門家活用事業との併用申請が可能です。

まとめ

中小企業の事業承継を支援するための融資・保証制度はさまざまあります。多少の手間はかかるものの、低いリスクで資金調達できるものもありますので、自社に合った制度を有効活用しましょう。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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