COLUMNコラム
「建設残土で食卓を豊かに」斬新アイデア、京都の企業がグランプリ 中小企業の「アトツギ甲子園」決勝大会
全国の中小企業後継者が、家業の「強み」を生かした新規事業アイデアを競い合う「アトツギ甲子園」の決勝大会が3月8日、東京都品川区の品川グランドホールで催されました。全国の予選を勝ち抜いたファイナリスト15人がプレゼンテーションし、「建設残土から食卓を豊かに」という斬新なアイデアを提案した、京都の建設会社がグランプリに輝きました。
目次
残土で荒廃農地を再生し、グルテンフリー実現
「アトツギ甲子園」は、近年、全国的な課題となっている中小企業の事業承継を進める機運を高めるため、中小企業庁が主催しており、今回で4回目です。
今回は全国211名のエントリーがあり、決勝大会は5つの地方ブロックを勝ち抜いた15名が、アイデアをプレゼンテーションしました。経営者や大学教授ら5人の審査員が、「新規性」「実現可能性」「社会性」「会社の経営資源活用」「熱量・ストーリー」の5つの観点から審査しました。
グランプリの経済産業大臣賞に輝いたのは、建設会社「マルキ建設」(京都府京丹後市)の堀貴紀氏。提案したテーマは、「公共残土で地域と食卓を豊かに」でした。
建築工事や土木工事では、大量の残土が発生します。その残土を、荒廃した農地の再生に活用し、コメ作りをします。収穫したコメで、グルテンフリーの米粉を生産し、日本人の食生活を改善するという提案でした。
審査員の入山章栄・早稲田大学ビジネススクール教授は、「アイデアが面白いし、今後の社会に対するヴィジョンやパッションも素晴らしい」と評価し、「全くゼロから始まる事業なので、堀さんは来年もこのイベントに来て進捗を報告してください」と語りかけました。
受賞した堀氏は、「本当にうれしい。ここまで来られたのは、地元の支援機関や経営者などに支えてもらったから。アトツギ甲子園に限らず、行動を起こそうとしているがその勇気が出ない皆さんも、第一歩を踏み出して一生懸命やっていれば、手伝ってくれる人たちが必ずいます。第一歩を踏み出してください」と熱く語りました。
ファイナリストたちは、補助金などで優遇措置も
中小企業庁長官賞は、「廃棄物を活用した環境配慮型社会の実現」を提案した大阪府の甲子化学工業株式会社の南原徹也氏が受賞しました。捨てられている貝殻とプラスティックの合成によって開発された新素材(SHELLTEC)による製品開発を推進するというものです。
ほかに優秀賞に選ばれたのは、
・株式会社「MARBLANC」(大阪市)の佐藤辰也氏 テーマ「後世と世界に誇る 新たなお肉体験を提供する和牛D2C」
・有限会社森清掃社(香川県琴平町)の山添勢氏 テーマ「新開発センサーで守り抜く未来の水循環 日本の浄水技術を世界へ」
・株式会社半澤鶏卵(山形県天童市)の半澤清哉氏 テーマ「農畜産業界に未来を!世界に羽ばたく日本一のブランド卵革命」
でした。
ファイナリストらは、発表した新規事業アイデアの事業化に向けて販路開拓などに取り組む際に、上限200万円・補助率3分の2を補助する持続化補助金(後継者支援枠)への申請が可能になるほか、ものづくり補助金や事業再構築補助金などの審査における優遇措置が予定されています。
「単なる金儲けと違い、嘘くさくない」
今回の審査員は、入山氏のほか、今野譲/グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社代表パートナー、佐々木紀彦/PIVOT株式会社代表取締役、坊垣佳奈/株式会社マクアケ共同創業者取締役、山井太/株式会社スノーピーク代表取締役会長兼社長執行役員の計5人でした。
審査員らは大会全体を通し、「循環型社会を見据え、コストではなくバリュー(価値)を重視する傾向が強まっている」「地方発スタートアップの勝ち筋はアトツギビジネスではないか」「アトツギの背景には確固たるヒストリーがあって、単なる金儲けが多い起業家と違って嘘くさくない」などと評価しています。
いま、全国では、後継者難のために黒字でありながら廃業する中小企業が増加しています。こうした「もったいない」廃業を食い止め、さらなる成長に導くのが「アトツギ甲子園」の狙いです。来年度も、第5回が開催される予定です。
(取材・文/ジャーナリスト 三浦 彰)
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