COLUMNコラム
日本の豊かな魚食文化を後の世代につなげたい—安岐水産の事業承継/安岐麗子インタビュー#2

地元・瀬戸内海の海産物の加工に始まり、海外の豊富な水産資源を日本の食卓に届けるべくさまざまな取り組みを行ってきた安岐水産。海外で新たに事業を始める夢を持っていた麗子氏でしたが、家族と社員の将来を見据えて三代目の社長に就任することに決めました。安岐水産の事業承継ストーリーを紹介します。
目次
自分らしい経営とはどんな経営だろう

麗子氏が安岐水産を引き継いでまず考えたこと。それは「私らしい経営ってどんな経営だろう」ということでした。
「父は本当に、真面目に水産加工をやってきたと思うんですよ。いいものを作っていれば、そのお客さんがまたお客さんを呼んできてくれるので、営業しなくても買ってくれるんだって、父が言ってたんですけど」。
もちろん父は父で頑張ってきたと思うけれど、自分が引き継ぐことで、女性ならではの視点もそこに加えて、イノベーションしていけるのではないかと、麗子氏は考えています。
先代と麗子氏が築いてきたインドネシアとのつながりも続けていて、貿易はもちろん、インドネシアからの実習生の受け入れや、他の会社への人材派遣も行っています。
「人と何かをできるっていうことが、やっぱりすごく嬉しいし、仕事の内容はまあ何でもやっていけるのかなと思うんですよね」と、麗子氏は柔軟に幅広くチャレンジする姿勢です。
双方向のコミュニケーションを目指す
安岐水産は、基本的に工場で加工した商品を業者向けに売ることが中心の会社。消費者と直接触れ合ったり、声を聞いたりすることが少ない一方通行なので、そういうところも変えていきたいと麗子氏は語ります。
「これからの経営課題として、魚が少なくなっているということがあります。海外からの調達力も日本は弱くなっていますから、魚価はこれからも上がり続けるわけですね。ですから、水産加工業は多分どこも厳しいと思うんです。やっぱり、付加価値をどれだけつけていく力を持てるかというところが、会社存続のポイントだと思っています」。
付加価値を生み出すにあたって、直接お客さんと触れ合える場所、一方通行でなく双方向のコミュニケーションを企業活動の中で生み出せないかと考え、「お魚生活すすめ隊」という活動を実施しています。魚の食べ方や味について広く知ってこらうことで、魚を身近に感じてもらい、魚食文化をつないでいこうという取り組みです。
「うちは女性がすごく元気な会社なので、その女性たちが中心になって、どうやったらお魚をもっと食べてもらえるだろうとか、いろいろ考えています。イベントで、お魚の捌き方教室をしたり、料理教室をしたり、いろんなことをやっています。自分たちの人生に、自分たちで意味をつけて活動ができて、やっていることが世の中のためになったら、みんな多分嬉しいじゃないですか。そういうことを目指してやっている感じです」。
魚を通して地域を盛り上げる

会社の横には、遠くに淡路島が見えるような景色のよい砂浜があり、麗子氏はそこにコンテナハウスで小さなレストランを作りました。レストランという名前ではありますが、「お魚生活すすめ隊」の発信基地として、漁師さんから買った魚でおいしい料理や惣菜を作って出すだけでなく、漁師さんと一緒に活動する拠点にもなっています。
漁師さんとのイベントでは、 県の水産課にタッチプールを出してもらって子供がお魚と触れ合えるようにしたり、キッチンカーを呼んでマルシェをしたり、コンサートをしたりと、人を呼ぶさまざまな仕掛けを試みています。
「さぬき市って人口は減っているんですけど、こういうイベントがあることで、外から来る人が増えて、リピーターになって、交流人口を増やすことにつながらないかなと思っています」と麗子氏。魚を通して地域の活性化に貢献することは、長年地域に根ざし地域とのつながりを大切にしてきた会社として、ごく自然なことなのかもしれません。
魚のおいしさを多くの人に伝えたい
近年日本人は魚を食べなくなってきているといわれます。しかし、日本の魚食文化は古くから先人たちが培ってきた大切な文化。魚のおいしさを一人でも多くの人に伝え、この文化を次世代につないでいきたい。そんな想いが、代々海の恵みを生業としてきた麗子氏と安岐水産を動かす原動力になっています。
「よく考えてみると面白いなと思うんですけど、結局やっぱり、父がやったことと一緒のことをしようとしてるんですよね。後付けで気がついたんですけど、あ、結局同じことやってるやんか、と思って」
水産資源を求めてさまざまな国へと飛び出していった父の姿。それを見ていたからこそ、麗子氏の心にも、海外ビジネスに向かう勇気や、新たなチャレンジを恐れない精神が芽生えたのかもしれません。
まとめ
瀬戸内海の海から始まり、広く世界の海へと舞台を広げた安岐水産。魚という海からの恵みをできるだけおいしく届けたい、その創業者の思いを受け継ぎつつ、関わる人々にとっての幸せを考えるところまで発展させた、安岐水産の事業承継。ぜひ参考にしていただきたい事例です。
記事本編とは異なる特別インタビュー動画をご覧いただけます
SHARE
記事一覧ページへ戻る