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28歳で借金2億、大赤字アパート相続「何で俺ばっかりこんな目に…」 地方の不動産賃貸会社、地獄のスタート ~山長・前編

899万戸――総務省が発表した、昨年の賃貸物件を含めた全国の空き家の数だ。空き家率は過去最高の13.8%となり、特に地方の状況は深刻で空き家率30%を超える地域もある。そんな大逆風が吹き荒れる地方都市に、賃貸物件の空き室を出さない不動産賃貸会社がある。28歳で赤字アパートと借金2億円を相続し、奈落の底に突き落とされた「山長」(山梨県甲府市)の長田穣代表取締役の復活劇を聞いた。

借金2億円、さらに毎月20万円の赤字を垂れ流すアパートを相続

――長田さんが賃貸アパートを相続した経緯を教えてください。

長田 バブルが弾ける前までは「土地神話」と言われ、土地の価格が上昇し続けていました。祖父は、賃貸アパートを建てれば節税でき、なおかつ家賃収入も得られると考え、1993年に賃貸アパートを3棟・20戸、1998年に1棟・14戸と、計4棟・34戸を建設しました。

その後、父が2006年12月にがんで亡くなりました。祖父は健在でしたが、息子の死に大きなショックを受け、後を追うように23日後、翌年1月に亡くなりました。

祖父は遺言書を残さなかったので、相続人たちで遺産分割協議を開くことになりました。父の姉2人らと協議した結果、アパート2棟を私が相続することになりました。

――アパート経営はどのような状況でしたか?

長田 ふたを開けてみたら、ローンの残債が約2億円ありました。黒字経営ならローンを返済しても手元にお金が残るので問題ありません。

ところが、相続物件の入居率は70%を切り、月約70万円の家賃収入に対して、ローンの返済額が月約90万円でした。毎月20万円の赤字です。この数字を見たときはがく然としました。相続するまで、こんな状態だとは思ってもいませんでした。

「俺は何て不幸なんだ」と、絶望の淵に

――赤字の事業を何の説明もなく引き継ぎ、どんな心境でしたか?

長田 とにかく毎日、母に対して愚痴っていました。「俺は何でこんなに不幸なんだ」と。28歳、借金2億円、お先真っ暗でした。

「なぜ自分ばっかりこんな目に合わなきゃいけないんだ」と、精神的にイラついて情緒不安定な状態でした。今思うと、うつ的だったと思います。

内部留保もまったくありませんでした。毎月20万円の赤字ですから、物件のリフォームすらできない。税金も払えない。

当時のメインバンクの融資担当者からは、「長田さんみたいな人を『資産貧乏』って言うんですよ」と言われました。

今なら、銀行員がこんな言葉を発したら大問題ですよね。しかし、当時の私はバカにされていることすら気づいていませんでした。

不動産会社に殴り込み!?

――アパート経営は改善しましたか?

長田 なかなか集客がうまくいかず、家賃収入は伸びませんでした。私は、そのことをすべて不動産管理会社や不動産仲介会社のせいにしていました。

あるとき、営業中の仲介会社に乗り込んで、お客さんがいる前で店長を罵倒しました。今では、地元の不動産業界で有名な話になっています。当時は“瞬間湯かし器”でした。

もちろん今はそんなことは一切しません。昔の長田穣と今の長田穣はまるで別人です(笑)。

ごみ置き場にごみが堆積して、まるで“ミルフィーユ”

――どうやって事業を回復させたんですか?

長田 2010年、物件の無料点検を受けてみました。その結果、外壁が劣化し、緊急で修繕が必要でした。といってもお金がありません。当時、月に1回、清掃業務を外部業者に月4万円で委託していたのを解約し、修繕費に充てることにしました。

入居者から家賃のほかに共益費をもらっているので、最低でも月1回は掃除しなければならないのです。じゃあ自分がやるしかない。自分でアパートの掃除を始めました。

――それまで掃除をしたことがありましたか?

長田 ありません。自宅の掃除もろくにやっていませんでした。アパートの掃除をやり始めた当初、ごみ置き場を見てみたら、ごみが堆積して層になり、まるでミルフィーユでした。こんなアパートじゃ誰も住まないと思いました。

最初は月1回、嫌々ながら掃除していました。ところが、月1回の掃除でけっこうごみがたまります。夏場なら、共用灯に集まった虫の死骸が共用廊下にたまるんです。

それをきれいにすると、自分の心まできれいになっていく気がしました。ちょっと自分で言うのも恥ずかしいですが(笑)。月1回だった掃除を週1回やるようになりました。ちなみに今は、平日ほぼ毎日掃除しています。

掃除とリフォームで黒字化、しかし…

――掃除を自分で始めたのが大きな転機だったんですね

長田 掃除に出会わなければ、今の自分はありません。自分で掃除をしていると、今まで管理会社に丸投げしていたリフォームにも関わりたくなりました。管理会社と工事担当者の打ち合わせにも参加するようにしたのです。

あるとき、工事会社から「壁紙はオーナーが選んだほうがいいんじゃないですか?」と提案されたので、自分で壁紙を選びました。すると、壁紙を気に入ったことが入居の決め手になった客がいた、と管理会社から報告を受けたんです。そのとき、掃除もリフォームも人任せにせずに自ら取り組めば集客できることを実感しました。

そして、2014年6月、遂に初の満室を達成することができました。家賃収入も70万円以下からスタートして、80万円になり、90万円になり、初めて3桁を突破したときのことを今でも鮮明に覚えています。「これは何かの間違いじゃないのか?」と思いました。

支払えずにたまっていた管理会社への“つけ”は最大200万円になっていましたが、2014年8月に完済しました。そして、9月から経営が完全に黒字化しました。

――アパート経営が順調にいくようになったのですか?

長田 これで経営が軌道に乗って安定した生活ができると思いました。ところが、わずか3年弱で行き詰りました。

2017年1~3月に3部屋を募集していたところ、1部屋しか決まらなかったのです。さらに、3月後半に急に転勤による2部屋同時退去が発生しました。やっとたどり着いた黒字から、再び赤字に転落したのです。

長田譲さんプロフィール

長田譲氏
有限会社山長 代表取締役
1978年山梨県生まれ。東海大学文学部卒業後、住宅メーカーの営業職や派遣社員などを経験。2007年、祖父の死去に伴いアパート2棟を相続。会社勤めのかたわら、アパートを経営。2015年、母親が継いでいた有限会社山長を承継し、代表取締役就任。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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