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売り手側が負う事業譲渡における競業避止義務とは?概要や該当するケースについて解説

事業を引き継ぐ方法として、事業承継や事業譲渡が挙げられます。事業譲渡において、売り手側には競業避止義務が課されます。これは会社法で定められているものなので、遵守しなければいけません。事業譲渡を考えている人向けに、競業避止義務について概要、該当するケース、注意点について解説します。

事業譲渡における競業避止義務とは一定期間同一のビジネスを行わないということ

事業譲渡では、会社法第21条によって売り手側へ競業避止義務が課されています。
競業避止義務とは、同一市区町村および隣接市区町村内にて、事業譲渡したものと同じビジネスを一定期間行わないという義務です。

また、株式譲渡では会社法によって定められていないものの、一般的には5~10年の競業避止義務が売り手に課せられており、株式譲渡契約書で規定します。

当事者間で特約を定めることで期間を延長または短縮できる

競業避止義務の期間は原則20年間となっていますが、売り手と買い手の当事者が同意して特約を定めれば、最大30年間まで延長することが可能です。一方、短縮する場合は期間の制限がなく、10年や5年という期間に設定できます。

事業譲渡を行う際は、双方の利益を考慮して競業避止義務を設定することが重要です。なぜなら、短縮しすぎると買い手の利益、延長しすぎると売り手の利益が阻害されるからです。

事業譲渡契約で別途定めることで排除可能

事業譲渡契約で別途定めれば、競業避止義務を排除することもできます。しかし、実際は買い手から5~10年ほどの競業避止義務が求められるケースがほとんどです。
買い手側からすると、売り手が敏腕の経営者である場合、同じビジネスをされると困るからです。

また売り手側で、事業譲渡後に譲渡対象周辺のビジネスを行うことを考えている場合は、あとになって誤解が生まれたり、トラブルに発展したりするのを防ぐために、競業避止義務の対象外として除いておくことを検討しましょう。

競業避止義務が課せられる理由は買い手を保護するため

競業避止義務が課せられる理由は、買い手を保護するためです。事業譲渡後に売り手がまったく同じビジネスを行うと、買い手と競合する可能性があります。また買い手としては、自社企業の成長や事業拡大のために売り手の事業を取得したのに、その目的が達成できなくなってしまいます。このような理由によって、売り手側に競業避止義務が課せられているのです。

競業に該当するケース

競業に該当するケースとしては、会社の事業内容や事業の展開地域がかぶる場合です。また、現在は行っていない事業でも、将来的に行っていく可能性があるものであれば、その事業を行うことは競業であるとみなされます。

競業避止義務の注意点2つ

競業避止義務を設定する上でのポイント・注意点を2つご紹介します。

①役員や従業員の退職後も一定期間効力が生じる

競業避止義務は、会社だけでなく、退職した役員や従業員にも一定期間効力が生じる点に注意が必要です。しかし、役員や従業員が退職後にどこに再就職するのかは、憲法で職業選択の自由が認められているため、会社法上の義務を負うことはありません。そのなかでも競業避止義務を有効にするために、退職前に誓約書等で合理的かつ職業選択の自由を侵さない程度で、具体的な競業避止義務の条項を設けます。具体的な条項とは、競業避止義務を課される従業員の地位や競業を禁止する地域、競業避止義務の存続期間、禁止される行為の範囲などが挙げられます。

②独占禁止法に抵触する可能性がある

事業譲渡における競業避止義務は、独占禁止法(独禁法)に抵触する可能性があります。独占禁止法とは、公正かつ自由な競争を促進し、各企業が主体的な判断で自由に行う事業活動を保護するための法律です。つまり独禁法では、競争を行わない旨を契約し、第三者に対して事業活動の制限を課すことを禁止しています。この独禁法に違反した場合は、課徴金の支払いや損害賠償金の支払いが課せられます。競業避止義務では、売り手側に対して実質的に競争しないことを課しているため、理論上は独禁法に違反していることになりますが、現実的には原則として違反とはみなされません。

まとめ

本記事では、事業譲渡における競業避止義務について解説しました。売り手側に課される競業避止義務は、買い手側を保護するためのもので遵守する必要があります。また、事業譲渡は事業承継と言葉が似ていますが、事業譲渡は会社の事業の一部またはすべてを譲り渡す手法であり、事業承継は親族または従業員が経営・事業を引き継ぐ手法です。
過去記事では、事業譲渡と事業承継の違いやそれぞれのメリット・デメリットまで詳しく紹介しているので、ぜひご参照ください。
(「間違える人多数!「事業承継」と「事業譲渡」の違いとは?」)
https://kenja-succession.com/articles/strategy/succession-mistake/

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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