COLUMNコラム
中小企業が事業承継を利用するメリットは? 注意点も解説
中小企業を経営するオーナーの高齢化により、廃業の選択を余儀なくしている会社も多いのではないでしょうか。日本政策金融公庫が行った「中小企業の事業承継に関するアンケート」によると、52.6%の企業が廃業を予定していることがわかりました。こうした後継者不足問題の解決策として、次世代へ事業を引き継ぐ事業承継があります。
この記事では、事業承継を利用するメリットや注意点を解説します。
目次
事業承継とは
事業承継の概要
事業承継とは、親族や従業員、第三者から後継者を選び、会社の経営権を引き継ぐことです。廃業している企業のうち、過半数以上の企業が黒字にもかかわらず廃業している現状があります。その廃業理由のうち約3分の1を占めるのが、後継者不足です。経営者の高齢化が進むなかで、事業承継は重要な経営課題といえます。
事業承継は、「人」「資産」「知的資産」を引き継ぐ
事業承継で引き継ぐのは、経営者という役職だけではありません。会社の資金や資産、従業員や取引先との人脈、ノウハウなど人以外の資産も引継ぎの対象です。具体的には、以下のように「人」「資産」「知的資産」の3つに分けられます。
事業承継の構成要素
構成要素 | 具体例 |
人 | 経営権、後継者の選定・育成、後継者との対話、後継者教育 |
資産 | 株式、事業用資産(不動産など)、資金 |
知的資産 | 経営理念、従業員の技術、ノウハウ、経営者の信用や取引先との人脈、顧客情報 |
事業承継の種類は主に3つ
事業承継の種類は「親族内承継」「親族外承継」「第三者承継」の3つです。
親族内承継では、経営者の子供をはじめとした親族が承継します。承継方法としては最も多く、55.4%が親族内継承とされています。
また、親族外承継は従業員などの親族以外が承継する方法で、割合としては19.1%を占めます。そして第三者承継とは、ほかの企業や創業希望者などへ株式や事業を譲渡することです。これは、企業や事業の買収・合併を意味する「M&A」と同じ意味を持ちます。割合としては16.5%を占めており、近年増えつつある方法です。
中小企業が事業承継を活用するメリット
親族内承継のメリット
親族内承継のメリットは以下のとおりです。
1.従業員や取引先からの協力や理解を得やすい
親族が後継者に選ばれるというのは自然な流れであり、これまでの経営方針や顧客との関係性が変わらず続いていくのではという周囲からの期待も生まれます。そのため親族外承継や第三者承継に比べると、従業員や取引先など関係者の理解が得られやすいといえます。
2.準備期間を長く確保でき、後継者の教育ができる
親族の中から後継者を選ぶことで、承継までの育成・サポートを長期的に行えます。なるべく早く後継者を決めておくと、会社の主要部門をローテンションで担当してもらう・社外での経験を積ませることも可能です。後継者にふさわしい人物になってもらうための教育支援に、たくさんの時間を割けるというメリットがあるのです。
親族外承継のメリット
親族外承継のメリットは以下の2点です。
1.後継者候補の選択肢が増える
親族外承継は親族という限られた範囲ではなく、社内で素質のある人材の中から候補者を選べます。そのため、経営能力の有無をきちんと判断したうえで適任者を選べるというメリットがあります。また候補者を早い段階で決定すれば、役員としてマネジメントを任せる・他部署を経験させる・セミナーに参加させるなどの育成にも時間をかけられます。
2.カルチャーを維持しやすい
自社の経営理念や文化をまったく理解していない人が後継者になると、社風や事業の方向性が大きく変わる可能性があります。その変化が原因で従業員が離れてしまうケースもあります。そのため、社内から後継者を選出することで、ほかの従業員からの信頼も得やすくなるでしょう。
第三者承継のメリット
第三者承継のメリットは、後継者不足を解決でき、経営能力のある後継者をしっかり選任できる点です。先代の経営者が高齢になり、後継者がいない状況であれば、会社の業績が良くても廃業を選択せざるを得ません。しかし第三者承継を活用すれば、幅広い候補の中から厳選できるため、事業を存続できる可能性が高くなります。加えて、承継先の企業と合併すれば技術やノウハウを共有できるため、事業発展も期待できるでしょう。
中小企業が事業承継を活用する際の注意点
親族内承継を活用する際の注意点
親族内承継を活用する際は、承継方法によって発生する税金が異なるため注意が必要です。事業承継の方法はおもに「譲渡・相続・贈与」の3つですが、どれを選択するかによって税金の種類と金額が変わるのです。
「株式譲渡」の場合は、復興特別所得税0.315%(2037年まで)を含めた所得税15.315%と住民税5%が発生します。令和5年8月現在で、申告分離課税の税率は20.315%です。続いて「相続」の場合は相続税が発生しますが、株式の評価額により税率も変動するため確認が必要です。そして「株式贈与」の場合は、株式の評価額に対して贈与税が発生します。
親族外承継を活用する際の注意点
親族外承継の場合は、資金調達方法を検討すべきケースもあります。後継者が経営を安定させるためには、総議決権の50%以上の株式を保有するのが一般的です。このとき、先代経営者が保有している株式も一緒に譲渡することになるため、受け取る株式に対する対価の支払いが必要です。しかし、後継者は会社に雇われていた元従業員であるため、十分に資金を持っていないこともあるでしょう。
そこで重要なのが「資金調達」です。金融機関やファンドを利用する以外にも、要件を満たしていれば、助成金や補助金を活用できる場合もあるため、専門家に相談して進めると良いでしょう。また相続内承継と同様に、相続や譲渡には税金が発生する点にも注意が必要です。
第三者承継を活用する際の注意点
第三者承継では、希望する条件でマッチングする承継先企業が見つからない場合もあります。まずは経営状況や問題を洗い出し、会社の磨き上げをすることが大切です。
事業承継計画書を作成し、後継者と認識をすり合わせることで、安心して事業承継を行えます。
まとめ
この記事では、中小企業が事業承継を活用するメリットや注意点について解説しました。先代経営者が事業承継という選択をすることは、後継者不足という課題を解決し、雇用・技術の維持に繋がります。
事業承継には注意点もありますが、メリットも多くあるため専門家と相談しながら理解を深めて利用しましょう。
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