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メリットだけじゃない! 事業承継税制のデメリット4選

中小企業の事業承継にかかる相続税・贈与税の支払いが、適用要件を満たすことで猶予(もしくは免除)になる「事業承継税制」。税制面で多大なメリットを享受できる一方、デメリットや注意点も存在します。本記事では、事業承継税制の利用を考えている人が知っておくべき「事業承継税制のリスク」について解説します。

事業承継税制とは?

事業承継税制とは、後継者が中小企業の株式を相続や生前贈与で引き継いだときに、本来支払うべき多額の相続税や贈与税の納税が猶予(または免除)される制度のこと。

納税猶予の詳しい適用要件については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「事業承継で相続税が免除になる方法!――5分でわかる「事業承継税制」の仕組みとポイント」

事業承継税制の手続きの流れ

事業承継税制の適用を受けるには、以下の手続きが必要です。

1.「特例承継計画」を作成する
2.「特例承継計画」を都道府県知事に提出、確認を受ける
3.「承継の実行」(贈与の場合は、この時点で代表の交代が必要)
4.都道府県知事に「認定申請」を行い、認定書を受領する
【ここまでで事業承継税制の適用が完了】
5.以降5年間、都道府県知事に報告書を提出し、税務署に届出書を提出する(毎年)
6.6年目以降は、税務署に届出書を提出する(3年に1回)

猶予から免除になる要件とは?

次の要件に該当した場合、税額は全額免除になります。

・後継者(受贈者)または経営者(贈与者)が死亡
・後継者(相続人)が死亡
・破産手続開始決定、もしくは特別清算開始の命令等を受けた
・後継者が、次の後継者に対して事業承継税制の適用を受ける贈与をした

事業承継税制のデメリット4選

事業承継税制は認定を受けることができれば相続税・贈与税が猶予(または免除)されるという非常にメリットが大きい制度ではありますが、一方で次のようなデメリット・注意点も存在します。

①適用期限が決まっている

この制度の適用期間は、2018年(平成30年)1月1日から、2027年(令和9年)12月31日の「10年間限定」です。つまり、2028年以降に贈与または相続によって事業承継税制対象資産を取得しても、制度の適用を受けることはできません。

令和4年度税制改正大綱において、「法人版事業承継税制の特例措置の適用期限は延長しない」と明記されたため、期限は延長されないことを念頭に、適用を受けるまでのロードマップを考える必要があります。

②特例承継計画の策定・認定が必要

適用を受けるには「2024年(令和6年)3月31日まで」に特例承継計画を策定し、都道府県知事に提出したうえで認定書を受領しなければなりません。

特例承継計画に記入すべき事項はそれほど多くないものの、「後継者が株式を取得するまでの期間における経営の計画」や「後継者が株式を取得した後5年間の経営計画」など、簡単に思い浮かぶ内容ではありません。

また、認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所など)の指導と助言を受ける必要があるため、作成は早めに取りかかりましょう。

③毎年、届出書の提出が必要

事業承継税制が一度適用されても、後から取り消しになるケースがあります。特に注意したい取消事由が「毎年の報告・届出書の提出をしなかった場合」です。

事業承継税の利用をスタートしたら、5年間は毎年、都道府県知事に年次報告書を、税務署に継続届出書を提出する必要があります。5年経過後には3年に1回の提出で済むようになりますが、一度でも(少しでも)提出が遅れたら納税義務が発生してしまいます。

税理士に丸投げするのではなく、経営者(後継者)自身もスケジュールを把握しておくことが重要です。総務や経理に任せていると、その人が退職したときに引き継がれず、忘れてしまう可能性があるので注意してください。

④適用取消になったら、猶予されていた税額全額+利子税を納付

事業承継にかかる相続税と贈与税を猶予できる事業承継税制ですが、「猶予」という言葉の通り、たとえ制度を利用できるようになっても、さまざまな要件を満たし続けなければ取り消しとなります。

「納税猶予が取り消しになる主な理由」はこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
「知らないでは済まされない! 事業承継税制の「取消事由」とは?」

適用取消になった場合、猶予されていた税額全額に加え、利子税を一括で支払わなければなりません。

利子税は年3.6%の割合で計算します。ただし、各年の特例基準割合が7.3%に満たない場合、利子税の税率は以下の計算式で算出します。3.6% × 特例基準割合 ÷ 7.3%(0.1%未満は切り捨て)
※ 特例基準割合は、国税庁のホームページで確認することができます。

例えば平成30年分の特例基準割合は1・6%なので、平成30年中の利子税の税率は「3.6% × 1.6% ÷ 7.3% = 0.7%(0.1%未満は切り捨て)」となります。

年0.7%であれば、それほど大きなダメージにはならないはずです。しかも、納税猶予期間が6年を超えた場合には、特例承継期間(5年間)分の利子税は免除されます。

したがって、適用取消によって納税義務が発生するものの、事業承継税制を使ったせいで大損するわけではなく、あくまで「支払うべきものを払う」という意味合いが強いです。「利子税があるから、事業承継税制は悪だ」と思う必要はないといえるでしょう。

まとめ

事業承継を考えている中小企業経営者にとって、事業承継税制は非常にメリットが大きい制度です。しかしデメリットやリスクもありますので、制度利用の際は十分に注意しましょう。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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