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地方を「コピペの街」にしてはいけない! 「その街ならでは」の小さな事業、相次ぐ第3者による事業承継

後継者がいない地方の小さな事業を、都会の企業が受け継ぐケースが生まれている。都市部ではM&Aなどによる事業承継が注目されるが、過疎化や高齢化で後を継いでくれる企業や人材がそもそも少ない。しかし、地方の小さな事業は、都会にはない「その土地ならでは」の魅力や価値を持っている。こうした地方の事業承継課題に向き合い、実際に零細事業者の承継に多く成功する企業も登場している。

日本海の小さな町の「天然塩」、都会の企業が承継

丹後絹塩

人口4万8千人で、65歳以上の人口が占める高齢化率は40%近い京都府京丹後市。過疎と高齢化が進む。この町で、1990年代後半から、日本海の海水を使い「太郎塩」という天然塩が細々と生産されてきた。

 市販の食塩のような単純な塩辛さとは異なり、ほのかな甘みが特徴で、料亭や飲食店などでひそかな人気を集めていた。しかし、生産者の男性は76歳になっており、後継者もおらず、塩作りは風前の灯火だった。

 2023年、この小さな製塩業を引き継いだのが、京都市伏見区のデザイン会社「マーケデザイン」だ。小林弘幸社長(54)が、知人の紹介で食味にほれこんだ。当初、小林社長は、ブランド作りをアドバイスしていたが、男性から後継を依頼され、承継を決めた。

 「丹後絹塩」とブランド名を変更し、2024年2月に発売した。塩作りを志して移住した若者数人が、「平釜炊き」というそのままの製法で塩作りに励む。「丹後絹塩」の価格は、製作の手間に見合い、かつブランドとしての価値も高めるため、大幅に値上げしたが、好評という。

小林社長は「『鯖江のメガネ』や『今治のタオル』のようなご当地名物にできる可能性がある」と見据えている。

仲介手数料は不要? 地方の事業承継をサポートして

 こうした地方の小さな事業者の事業承継をサポートしているサイトがある。2020年に岡山市の企業「ココホレジャパン」が立ち上げたサイト「ニホン継業バンク」だ。「丹後絹塩」の承継のきっかけも、「太郎塩」が掲載された「ニホン継業バンク」のホームページを見たことだったという。

 サイトは、後継を探している企業や事業者を紹介し、受け継ぐ企業や人材を探すシステムだ。特筆すべきは、譲渡側も受け継ぐ側も「仲介手数料」が不要だという。

 浅井克俊代表取締役(50)によると、都会ではM&A支援機関などが手数料を取りながら事業承継をサポートしている。しかし、地方の零細事業者には手数料を払う余裕もない。このため、ニホン継業バンクでは、取り組みに賛同した市町村からサブスクリプションとして資金を捻出している。

ニホン継業バンクに参加する市町村の一覧

 現在、北海道から九州地方の15市町村が参加し、地元事業者が多数エントリーして後継者を探している。スポーツ用品店や薬局、スナックなど、業種も多岐にわたる。開始以来、19件の事業承継を完了させたという。

 浅井代表取締役は「資金力のある企業ばかりになると、どの町も似たような店や特産品が並ぶ『コピペの街』になってしまう」と指摘し、「地方の生命線となる観光や移住には『その街ならでは』が欠かせない。経済合理性で計れないものを守り、地域の基盤や魅力を次世代に伝えたい」と話す。

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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