COLUMNコラム
製薬と電機、特許の数が全然違う? 「特許が全て」は固定概念、日立製作所から転身の製薬会社社長が語る /山口惣大ロングインタビュー#2
月経困難症治療のための低用量ピルなど、産婦人科領域で多様な製品を取り扱い、甲状腺領域におけるホルモン製剤では国内90%以上のシェアを占める製薬会社「あすか製薬」(東京都港区)。2021年、5代目代表に就任した山口惣大氏は、総合電機メーカー「日立製作所」から転身し、家業を継いだ。全くの異業種での経験が、事業承継にどのように生かされたのかを聞いた。
目次
異業種からの転身、「戸惑いと違い」
——日立製作所から異業界であるあすか製薬に入社して、どうでしたか?
山口 電機メーカーの日立製作所とは業種も職種も規模も異なり、最初は戸惑いました。あすか製薬に入社してすぐ、事業開発本部に配属されました。国内外の製薬会社との契約や、製品開発のためのライセンス取得などが主な業務です。
日立製作所では知的財産を扱っていましたので、ライセンス契約に関する業務はある程度は対応できましたが、製薬業界に関する知識を深めるために自ら事業開発に関わる会合などに出向きました。
その後、研究所へ移りました。研究所では、実際に手を動かすのではなく研究の管理業務を担当し、まもなく研究開発と事業開発を含めた取締役を経て2021年にあすか製薬の社長になりました。
——あすか製薬の業務を通じて感じた、製薬業界の事情を教えてください。
山口 以前勤めた電機業界と製薬業界では、知的財産に関して特許の価値に大きな違いがありました。電機業界では一つの製品に対して数百、数千の特許が使われていることがあります。それに対し医薬医療業界では1つの医薬品に対して多くても10個前後ほど。少ない場合は1個や2個という場合もあります。
電機業界では、数が多い分、一つひとつの特許の価値は相対的に低いといえます。その中で競争力を維持することがミッションになりますが、一つの特許の重要性が大きい製薬業界とは、その点で大きな差を感じました。
「特許が全て」という固定概念は捨てよう
——社長になって見えてきたことを教えてください。
山口 特許の有無で製品力に差がつく製薬業界では、「特許がすべて」という考えになりがちで、そう感じている人は少なくないと思います。ただ、特許がないからと言って有意義な選択肢まで、排除されている場合もあると考えています。
——それは、製薬業界とは別の分野を経験されたゆえの視点ですか。
山口 それはあると思いますね。私のように、まったく異なるフィールドで経験を積んでから企業の管理職や経営の立場でマネジメントをするのは、世間一般では珍しいかもしれません。
あすか製薬は産婦人科、泌尿器科、甲状腺に強みを持つ製薬会社として増収増益を続けています。しかし、長期的な目線で将来を見ると、今のままではいずれ成長は止まってしまいます。
過去の実績をトレースするのではなく、自らの力で実績をつくる活動をしなければ成長はできない。それには、新たな「知」とあすか製薬がもつ既存の「知」を合わせた「知の探索」が必要だと考えています。
全員で猪突猛進ではいけない
——「知の探索」の中でどのような改革を行っていきたいですか?
山口 日本の医療用医薬品市場は、他の国と比較して成長が鈍化しています。そのため単にトップダウンで同じ方向に向かって推進力を上げていくだけではいけないと思っています。しっかりとビジョンを共有した上で、それぞれの社員が自律的に目指す方向に進んでいかなければ、次のステージへのイノベーションは起きないと思っています。
一つの指示に従ってみんなで猪突猛進すれば、エネルギーは出ます。しかし、それをいったん後回しにしてでも、各部門が自立し考えることができる組織になっていかなければならない。我々が目指す次のステージに行くためには、自立するための改革が必要だと考えています。
あすか製薬株式会社
1920年、山口八十八氏が帝国社臓器薬研究所を横浜市に創立。産婦人科領域や甲状腺領域におけるホルモン製剤のリーディングカンパニーとして、多くの患者さんを支えている。2021年、持ち株会社体制に移行しあすか製薬ホールディングス株式会社を設立、5代目の山口惣大氏があすか製薬株式会社の代表取締役社長に就任。2023年度に、産婦人科領域での国内売上No.1を達成した。
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