COLUMNコラム
「生理の悩み」を我慢しないで!薬と環境づくりで支える「あすか製薬」オーナー企業だからこそできる、目先の利益だけを追わないビジョンとは /山口惣大ロングインタビュー#3
月経困難症のための低用量ピルをはじめとして、多様なホルモン製品を取り扱い、その中でも甲状腺ホルモン製剤で国内90%以上のシェアを占める「あすか製薬」(東京都港区)。100年以上の歴史を誇り、今も創業家の5代目社長、山口惣大氏が率いる創業家企業だ。こうしたファミリービジネスは、創業家に利潤や権力が集中しがちという批判を受けることがあるが、医薬品開発には長い年月がかかるため創業家の強みを背景に長期的なビジョンを追求できる面もある。あすか製薬は、その強みを生かして、女性ならではの悩みに医薬品と、疾患啓発による受診しやすい環境づくりでアプローチを続けている。
目次
それは釘なのか。ハンマーで打っていいのか。
——社長就任後に苦労されたエピソードをお聞かせください。
山口 大学卒業後、8年間務めた日立製作所から転身し、家業を継ぎました。2021年には社長に就任しましたが、前職に比べると大きな組織ではなく、さまざまなところで責任の明確化が曖昧になっていました。
「ハンマーを持つ人にはすべてが釘に見える」という言葉があります。すべての課題が釘にみえていた時期がありました。それはとても危険なのですが、そういう時期がありましたね。
——全ての課題、すなわち釘を全部打つことが危険なのでしょうか。
山口 必ずしも自分が持っているハンマーが正しいとは限らないことに気づいたんです。企業はそれぞれ歴史的な背景を持ち、独自の仕組みを持っています。そのうえで、自分のハンマーで打つ釘が最適なのか、そもそも、打とうとしている物は釘なのか、という点はかなり気をつけないといけないと思いました。
新たな仕組みづくりが、従来の強みを損なう可能性もあります。現在は、あすか製薬の状況や規模、市場環境に適した独自の仕組みを構築すること、自身のハンマーを変えることで課題解決に取り組んでいます。
生理の悩み、社会全体でやわらげたい
——生理について、医薬品以外のアプローチもされています
山口 あすか製薬は創立100周年を機に、女性特有の疾患に対する啓発活動を行う新組織「女性のための健康ラボ Mint⁺(ミント)」を設立しました。「知ることは、自分を守ること。」をキーメッセージとして、ウェブサイトでの情報発信や講演会活動、高校への教材提供、他社とコラボレーションを行い、疾患啓発などを実施しています。
——企業も対象にしています
山口 企業に対しては、女性の活躍推進に関する動画をつくり、女性本人や男性も含めた従業員への理解を促しています。同調圧力やバイアスに関係なく、産婦人科を受診できる環境の醸成が重要だと考え、我々ができることをやっていきたいです。
創業家の企業だから持っている強みとは
——今後の取り組みについて教えてください。
山口 日本の女性は病院で治療すればQOL(クオリティオブライフ)が改善する疾患を我慢している人が少なくありません。特に月経に付随する病気、月経困難症や子宮筋腫、子宮内膜症は、気づいてない人や、我慢してしまう人も多くいます。病院に行くことをためらわず治療できる社会環境を作っていきたいですね。
医薬品という解決策に加え、周辺の理解を促すところから女性自身の一刻も早い気づきにつなげる。その両輪で取り組んでいきたいと思います。
——長期的な目線が持てるところは創業家としての強みですか?
山口 主体性が非常に高い点に創業家の強みがあると思います。そして、長期的な視点は会社のためにもなります。短期的な利益のために未来にツケを回すという決断はしないようにしています。
会社にとって利益になるものには長期的な目線で取り組んでいきたい。女性ならではの悩みに苦しむことのない社会を、医薬品に加えて環境づくりで実現する。こうしたことは、長期的ビジョンが必要です。それをできるのが、目先の成果に追われることがない創業家としての強みだと感じています。
あすか製薬株式会社
1920年、山口八十八氏が帝国社臓器薬研究所を横浜市に創立。産婦人科領域や甲状腺領域におけるホルモン製剤のリーディングカンパニーとして、多くの患者さんを支えている。2021年、持ち株会社体制に移行しあすか製薬ホールディングス株式会社を設立、5代目の山口惣大氏があすか製薬株式会社の代表取締役社長に就任。2023年度に、産婦人科領域での国内売上No.1を達成した。
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