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「創業者の理念」、時代が変わってもリスペクトして守るべき? 事業承継後、自分のカラーで経営したい次世代はどうする

先代、先々代から受け継がれてきた会社の理念が、時代に合わなくなったり、形骸化したりしていないだろうか?創業の理念は変えられないが、自分のカラーを打ち出したい後継者もいるはずだ。事業承継の際、会社の理念をどう受け継いでいけばいいのか?会社の理念とも言える「パーパス」の重要性を説く経営コンサルタント「やまぐち総研」(山口市)の中村伸一所長に聞いた。

仏つくって魂入れず?

——会社の理念「パーパス」を作ることは、なぜ大切なのでしょうか。

中村 新型コロナウイルス禍で、将来の予測が立たないVUCA(ブーカ)時代になったといわれます。数字的な見通しを立てにくいからこそ、経営の軸として、パーパスの重要性が高まっています。

VUCAの時代に対応し、社員が一丸となって事業再構築や事業承継を進めていくためには、理念・パーパスが必要だと思います。

ただ、現状では、自分の会社の経営理念を知らない社員が多いです。企業向けの社員研修や営業研修をした際、大手企業であっても自社の経営理念をちゃんと言える社員が意外と少ない。

そこで、私が経営者に新たなパーパスの導入を提案すると、すぐに「いいね。じゃあパーパスをつくるか!」となるんですね。

ところが、ただ作って掲げるだけで、パーパスを社員やステークホルダーに浸透させる取り組みをせずに終わってしまうことがあります。パーパスは実践するほうが大事なのに、活用できていない企業も目立ちます。

事業承継こそ、パーパス作成のベストタイミング

——効果的に理念を浸透させるには、どうすればいいでしょうか。

中村 後継者に事業承継するときこそ、従来の経営理念を今一度見つめ直す絶好のタイミングです。改めて経営理念を理解して、社員に浸透させるきっかけになると思います。

子どもへの事業承継だけでなく、場合によっては第三者承継やM&Aという選択肢もあるでしょう。会社を次の世代に引き継ぐときこそ、理念を見直すべきだと思います。

創業者の理念、次世代はどうするべきか

——会社の理念は、時代に合わせて中身を変えるべきですか?

中村 変えてはいけないものと変えていいものがあると思います。創業者の理念は変えるべきではありません。リスペクトすべきです。「易不易」や「不易流行」という熟語があるように、本質的なものを大切しながら、流行に合わせていくべきだと思います。

——中村さんが使っている「温故承新」という言葉につながりますね。

中村 「温故承新」という言葉は、私がひらめいた言葉です。地方では中小企業の後継者不足が大きな社会問題になっていることから、2021年に山口県の若い弁護士や税理士ら士業の人たちと「やまぐち事業承継・M&A協同組合」を立ち上げました。

自分たちのメッセージを伝える言葉をつくりたいと思案していたら、ふとひらめいたのが「温故承新」です。「(故)ふるきを(温)たずね(新)あたらしく(承)うけつぐ」という意味です。これを組合の理念として掲げました。

理念は変えられないが、パーパスなら新たにつくれる

——先代や先々代がつくった経営理念を変えられないけれど、パーパスなら後継者が新たに作ることができるのでしょうか。

中村 そうなんです。ただ単に親の会社をそのまま引く継ぐだけという意識の後継者は、理念を気にしないでしょう。

ところが、自分の代で新たな事業を創出しようという意欲的な後継者は、改めて自社の見直しや方針の組み立てをすると思います。そうした後継者は、先代や先々代の理念を継承しつつも、時代に合わせて変えなければいけないという問題意識を持っています。

そうした後継者は、跡を継ぐタイミングで理念とは別に「パーパス」という位置づけで今風の内容をまとめればいいのです。創業の理念自体は、変えずにそのまま掲げておいていいと思います。

引き継いだ側が理念ではなくパーパスとして、20年、30年先を見据えた未来像を描けばいいのです。そのとき、社員やステークホルダーの意見も聞きながら一丸となって作っていくといいです。

廃業寸前の老舗を復活させた「理念重視」の経営者

——実際に、事業承継において、パーパス経営を実践している事例はありますか?

中村 まだ中小企業の事業承継でパーパス経営に目を向けている事例は少ないのが現状です。ただ、明確な経営ビジョンのもとでDXを推進し、海外にまで販路を拡大した中小企業が山口県内にあります。ビジョンが社員にも浸透していて、事業承継もスムーズでした。

また、私がM&Aの勉強会に参加していたとき、事務局の女性から「今度、社長になるん
です」と急に言われて驚いたことがあります。その女性は、廃業寸前だった福岡県のかまぼこ企業「吉開のかまぼこ」を承継した林田茉優さんでした。

吉開のかまぼこは創業130年の老舗ですが、後継者不在などを理由に2018年から休業状態でした。大学時代から後継者問題に取り組んでいた林田さんが2021年に社長に就任して吉開のかまぼこを復活させました。

林田さんが会社を引き継いでホームページをリニューアルしたとき、トップページで思い
や理念を大々的に打ち出しました。自分たちが引き継いだ理由や経営ビジョンが詳細に語られています。

最近よく「持続可能な経営」といわれます。1〜2年のことであれば補助金をもらって、目先の売り上げを伸ばすことは可能かもしれません。しかし、先に経営理念・パーパスをきちんとつくって方向性を明確にしたほうが、長いスパンで事業が持続するのではないでしょうか。

※2024年4月に取材

中村伸一さんプロフィール

やまぐち総合研究所有限会社 取締役所長。1965年、山口県山口市に生まれる。九州産業大学卒業後、中国松下システム(株)に入社。友人3名とIT関連事業を行うキャスト(株)を設立。取締役として2年、代表取締役を5年間つとめる。2005年、やまぐち総合研究所有限会社を設立。企業の事業づくりを支援する達人として、コラボレーションを事業創造の中心に考え、「ワクワクコラボレーション」を商標登録して「ワクワク」する事業創造の支援をしている。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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